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◆Producers Note◆

『ソウル・キッチン』は50年代のドイツ映画によく見られる、独創的なハイマートフィルム(郷土映画)です。小さな村のような小さなコミュニティで起こる友情や愛、人生を描いている。これは家族や友人がいる場所――恋に落ちるような魔法の場所だったり、振られたりしたときに逃げ込める場所としての、ホームであり、ファミリーについての物語なのです。『ソウル・キッチン』はそういった人たちの関係性だけでなく、労働者たちが住む古い場所に、高級な不動産を新しく作っていく投機計画の是非についても訴えています。本作はファティ・アキン監督のホームタウンであるハンブルクの中で都市化が進んでいるヴィルヘルムスブルクの郊外を舞台にしていますが、この設定はどこの街にでも置き換えることができるでしょう。『ソウル・キッチン』は基本的にはクラシカルな手法で物語を紡ぎつつ、自分たちのオリジナルな手法も取り入れていきました。

『ソウル・キッチン』は『愛より強く』の伝統を受け継いでいて、音楽が主人公同等に重要な位置付けになっています。映画内で、税務署の女性が差し押さえとして店のスピーカーを運びだそうとしているとき、ジノスは「音楽がないと魂が飢える!!!」と必死に叫びます。“魂=ソウル”はこのレストランの心そのものなのです。たとえば、クール&ザ・ギャングやクインシー・ジョーンズ、モンゴ・サンタマリア、サム・クック、ルース・ブラウンの古いR&Bなどを代表する音楽です。だけど、サウンドトラックには、ソウルミュージックだけではなく、ハンブルクのヒップホップやエレクトロサウンド、ライブ音源のロック、レンベーティカ(ギリシャのブルースと呼ばれる音楽)、「ラ・パルマ」(スペインのイラディエールが作曲したハバネラ:キューバの民族舞曲)なども入っています。これらはファティ・アキン監督の典型的なDJセットです。もちろん、30年代〜40年代のドイツ国内でもっとも人気があり、もっとも偉大な俳優であり歌手でもある、ハンス・アルバースの歌もハンブルクが舞台のハイマートフィルムでは欠かすことはできません。