【芳醇なワインのような味わい】
『月曜日に乾杯!』『素敵な歌と舟はゆく』のヒットによって一躍その名を日本に知らしめたグルジア出身の名匠、オタール・イオセリアーニ。『月曜日に乾杯!』が2002年ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞したのをはじめ、これまでにもカンヌやベルリン、ヴェネチアといった海外の名だたる映画祭で数々の賞を受賞するなど、イオセリアーニの作品はすでにヨーロッパを中心に世界各国でゆるぎない評価を得ています。
オタール・イオセリアーニの映画をたとえるならば、人生の甘味と酸味がほどよく混じった味わいと軽妙な口当たり、ちょっぴりいじわるなのどごしの芳醇なワイン。まずは一口。個性的かつ魅力的なキャラクター、しりとりのようにつながるユーモラスなエピソード、細部にまでこだわった音(楽)、作品に漂うノンシャランとした空気、ジャック・タチやチャップリンのように笑いに包んだ反骨精神が、心地よい世界へといざないます。その世界にふわりふわりと漂うだけで、このうえない楽しさを味わわせてくれるイオセリアーニ独特の作風は、一度口にしたら病みつきになってしまうほど。日本でも、『月曜日に乾杯!』での極上のリラックス感と『素敵な歌と舟はゆく』でのとびきりの幸せ感を味わった人々がその世界に魅了され、熱狂的ファンが今も増え続けています。
【「人と人との結びつき」が
教えてくれる、本当の豊かさ】
これまで誰も見ることができなかったオタール・イオセリアーニの中編デビュー作『四月』が復原され、2000年カンヌ国際映画祭で特別招待作品として上映されました。物質的な豊かさを求めるうちにケンカを繰り返すようになった若いカップルが、本当の豊かさとは何か、いちばん大切なのは何かに気づくまでをコミカルに描いた本作の、今なお色あせないメッセージの新しさ、言葉を必要としない圧倒的な映像のすばらしさに、世界中から集まった観客は熱狂し盛大な拍手でイオセリアーニへの賞賛の意を表しました。そしてこのデビュー作『四月』にこめたイオセリアーニの思いは、現在も彼の作品に脈々と流れています。
「“人の結びつき”というと、金銭がらみのイメージがどうしてもついてまわるが、それは本当の結びつきではない。本当の結びつきとはつまり友情や分かち合いで、誰かの友人であることを喜んだり、その誰かと幸せな時間を過ごしたり、生きていて幸せだと感じたりすることなんだ」と、お金やものではなく「人と人との結びつき」こそが人生を豊かにすると語ってきたイオセリアーニ。このイオセリアーニ流の人間賛歌は、スローライフという生き方が注目を集めたり、心の豊かさが求められることが多くなった今だからこそ、私たちの心にストレートに響いてくるのです。