◆イントロダクション◆
研ぎ澄まされたモノクローム映像で綴る 孤高のノワール・サスペンス
偶然、目撃した殺人事件。男の運命が狂ってゆく……。
果てることない海のそば。静かに生きる鉄道員のマロワン。毎晩「ガラスの檻」のような制御室から、漆黒の港と駅を見下ろしている。ある夜、彼の平凡な生活に、突然立ち現れた“倫敦から来た男”ブラウン。マロワンは偶然にもブラウンが犯した殺人の現場を目撃してしまう。そして、殺された男が持っていた大金の入ったトランクを、マロワンは海中から見つけ出す。それはブラウンが必死に探していたものだった……。出会うはずのなかった男たちの人生が交差し、ゆっくり破滅へと向かってゆく。「豊かになりたい」、「幸せになりたい」誰もが持っているほんのささやかな望み。しかし、突然、大金を目の前にした時、ささやかな望みは大きな欲望へと豹変する。誰もが罪人になりえるという人間の脆さと哀れさをスリリングに描く、孤高のノワール・サスペンス。
アカデミー賞受賞女優ティルダ・スウィントンを迎え鬼才タル・ベーラ監督が放つ
7年ぶり待望の最新作
7時間半にも及ぶ大作「サタンタンゴ」、驚嘆の傑作『ヴェルクマイスター・ハーモニー』で観客を熱狂させ、ブラッド・ピット、ガス・ヴァン・サント、ジム・ジャームッシュら世界の映画人が心酔するハンガリーの至宝タル・ベーラ。ベルリン、カンヌなど映画祭でゆるぎない地位を築くと共に、“芸術作品”としても称賛を受け、ルーヴル美術館やニューヨーク近代美術館(MOMA)でも、特集上映が行われた彼の最新作がいよいよ日本公開を迎える。時代の寵児デレク・ジャーマンのミューズとしてデビュー後、幅広く活躍し『フィクサー』で2008年アカデミー賞助演女優賞に輝いたティルダ・スウィントンを筆頭に、個性的で風変わりな登場人物たちが、幻想的な異世界へと観る者をいざなう。光と影を熟知したモノクロームの映像美、空間の概念を揺るがすカメラワーク、登場人物の心情をも見透かすような長回し、タル・ベーラの完璧な技巧と独自の哲学で構築された“本物の映画”がここに誕生した。それは新たなる伝説の幕開けとなる。
文豪ジョルジュ・シムノンの原作が“観る文学作品”として、いま甦る
パブロ・ピカソ、ジャン・ルノワール、ジョセフィン・ベーカー、ジャン・コクトーなど多くの芸術家や文化人と交流が深かった推理小説家ジョルジュ・シムノン。今なお世界中から愛されている「メグレ警視」シリーズの生みの親であり、生涯で400作以上を執筆、総発行部数は5億冊を越えるといわれている20世紀を代表する作家の一人である。本作の原作は75年の時を経ても「これは私たちの物語だ」とタル・ベーラが一瞬にして魅了された同名小説。「罪とは何か?」「罰とは何か?」と、問いかけ、鋭い視点で心の奥底にある本質をえぐり出す物語は、まさに彼の真骨頂であり、今なお色褪せない。その隠れた名作がついに映像化され、シムノンの愛息子も「輝かしいスタイルの実現に深く感動した」と高く評価する、“観る文学作品”へと見事に昇華された。