◆原作:ジョルジュ・シムノン◆

シムノンの写真

1903年ベルギーのリエージュ生まれ。16歳でリエージュの新聞社「ガゼット・ド・リエージュ」の記者となり、18歳で処女作「めがね橋で」をジョルジュ・シム名義で発表。20歳の時に画家志望の婚約者とパリへ移住し本格的に小説家を目指す。後に84篇も続く「メグレ警視」シリーズの第一作目「怪盗レトン」を31年に出版。「怪盗レトン」の宣伝のために大々的に行われた出版パーティーには、パブロ・ピカソ、ジョセフィン・ベーカー、藤田嗣治などシムノンと交流のあった多くの芸術家や文化人たちが訪れ伝説となった。「メグレ警視」シリーズ以外にも「雪は汚れていた」、「闇のオディッセー」、「ちびの聖者」など本格小説をつぎつぎと発表し、生涯で400作以上を執筆、総発行部数は世界中で5億冊を超えるといわれている。また33年雑誌「パリ・ソワール」に亡命中のレフ・トロツキーのインタビューを掲載するなど、小説以外でも幅広く活躍した。
日本でも多くの著書が翻訳され、作家たちに影響を与えたが、特に江戸川乱歩は「サン・フォリアンの首吊りの男」を翻案して「幽鬼の塔」を書き、47年に雑誌 「ぷろふぃる」に寄稿した「小説ベスト・テン」のエッセイの中でも、シムノン作品を“別格”に位置づけるほど、敬愛していた。
本作の原作となった「倫敦から来た男(L'Homme de Londres)」は34年に出版され、43年フランスで「L'Homme de Londres」(アンリ・ドゥコワン監督)、47年にはイギリスで『誘惑の港』(ランス・コンフォート監督)のタイトルで映画化されている。他にも、「深夜の十字路」(31/ジャン・ルノワール監督)、ブリジット・バルドー主演『可愛い悪魔』(58/クロード・オータン=ララ監督)、アラン・ドロン主演『帰らざる夜明け』(71/ピエール・グラニエ・ドフェール監督)、『赤道』(83/セルジュ・ゲンズブール監督)、『仕立て屋の恋』(89/パトリス・ルコント監督)など多くの小説が時代を超えて映画化、そして世界中でTVシリーズ化されている。60年のカンヌ国際映画祭ではシムノン自身が審査委員長を務めた。
プライベートは、映画監督フェデリコ・フェリーニとの対談で「1万人の女性と性的関係を持った」と語ったほどの派手な女性関係、3回の結婚、正妻と愛人の同居、そして愛娘の自殺など、スキャンダラスで波乱に満ちた人生を歩んだ。
89年9月4日スイス・ローザンヌ市の自宅にて86歳で死去。

息子ジョン・シムノンの言葉

「メグレ警視」シリーズを含む、すべての父の小説は、奇妙にも私たちと、とても似ている男女の人生の一コマを示したり、避けることのできない運命にドラマチックに立ち向かっていく方法を教えてくれます。
これらの様々な人生は、映画やテレビで映像化することは、たやすいことではありません。特に『倫敦から来た男』は、主人公の心の中だけで起こっているサスペンスなので、これを映像で表現することは不可能だと私は思っていました。
しかし、撮影時に起きた信じがたい困難にも関わらず、荒々しくも熱烈にこの映画にチャレンジし続け、輝かしいスタイルを実現したタル・ベーラ監督に、私は深く感動しました。
タル・ベーラ監督に心から感謝します。

2007年5月5日
ジョン・シムノン

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