監督 & スタッフ

監督・脚本
ジャ・ジャンクー 賈樟柯 JIA Zhangke

ジャ・ジャンクー

1970年5月24日生まれ、中国山西省・汾陽(フェンヤン)出身。18歳の時に山西省の省都・太原(タイユェン)の芸術大学に入り、油絵を専攻しながら、小説を執筆し始める。この頃、『黄色い大地』(84/チェン・カイコー監督)を観て映画に興味を持ち、93年に北京電影学院文学系(文学部)に入学。在学中の95年にインディペンデント映画製作グループを組織し、55分のビデオ作品「小山の帰郷」を監督、香港インディペンデント短編映画賞金賞を受賞。この時、グランプリを受賞したのがユー・リクウァイの「ネオンの女神たち」。この出会いを通じて、『一瞬の夢』以降、ほぼすべての作品の撮影をユー・リクウァイが手掛けることとなる。97年に北京電影学院の卒業制作として、初長編映画『一瞬の夢』を監督、98年ベルリン国際映画祭フォーラム部門でワールドプレミア上映され、ヴォルフガング・シュタウテ賞(最優秀新人監督賞)を受賞したほか、プサン国際映画祭、バンクーバー国際映画祭、ナント三大陸映画祭でグランプリを獲得、国際的に大きな注目を集めた。06年、三峡ダム建設により水没する古都・奉節(フォンジェ)を舞台にした『長江哀歌』がヴェネチア国際映画祭コンペティション部門でサプライズ上映され、金獅子賞(グランプリ)を獲得。15年、フランス監督協会が主催する「黄金の馬車賞」を受賞。18年10月、福岡アジア文化賞大賞を受賞。本作『帰れない二人』は5度目のカンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。中国人監督でカンヌのコンペに5作品出品されているのはチェン・カイコー監督とジャ・ジャンクーのみ。いま最も、パルムドールに近い映画監督といっても過言ではない。

フィルモグラフィ

1995
「小山の帰郷」 ※中編ビデオ
第2回香港インディペンデント短編映画&ビデオ賞 金賞
1997
『一瞬の夢』
第48回ベルリン国際映画祭 ヴォルフガング・シュタウテ賞(新人監督賞)/NETPAC賞
第3回プサン国際映画祭 ニュー・カレント賞(最優秀作品賞)
第17回バンクーバー国際映画祭 ドラゴン&タイガー賞
第20回ナント三大陸映画祭 グランプリ/主演女優賞
第41回サンフランシスコ国際映画祭 SKYY賞 ベルギー王立シネマテーク選出 黄金時代賞
2000
『プラットホーム』
第57回ヴェネチア国際映画祭 NETPAC 賞
第22回ナント三大陸映画祭 グランプリ/ナント市賞
第15回フリブール国際映画祭 国際批評家連盟賞/ドン・キホーテ賞
第14回シンガポール国際映画祭 ヤングシネマ賞
第3回ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭 グランプリ
2001
「In Public」 ※短編ドキュメンタリー、オムニバス作品「三人三色」の一篇
第12回マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭 グランプリ
2002
『青の稲妻』
第55回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品
第16回シンガポール国際映画祭 国際批評家連盟&NETPAC特別賞/アジア映画特別賞
2004
『世界』
第61回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門正式出品
第7回ドーヴィル・アジア映画祭 脚本賞
第6回ラス・パルマス・デ・グラン・カナリア国際映画祭 金賞(最優秀作品賞)/撮影賞
第10回ヴズール国際アジア映画祭 審査員グランプリ
第29回サンパウロ国際映画祭 批評家賞(国際部門)
第9回トロント映画批評家協会賞 最優秀外国語映画賞
2006
『長江哀歌(エレジー)』
第63回ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞(グランプリ)
第1回アジアン・フィルム・アワード 最優秀監督賞
第34回ロサンゼルス映画批評家協会賞 最優秀撮影賞/最優秀外国語映画賞
第3回アデレード映画祭 グランプリ
第7回華語電影傳媒大奨 観客賞
第28回ダーバン国際映画祭 最優秀監督賞
第34回SESC映画祭 最優秀外国語映画賞/最優秀外国語映画監督賞
第15回上海映画批評家協会賞 優秀賞
第8回ヴィレッジ・ヴォイス選出 最優秀未公開映画賞
第81回キネマ旬報ベスト・テン 外国映画第1位/監督賞
第62回毎日映画コンクール 外国映画ベストワン賞
第50回朝日ベストテン映画祭 洋画第1位

「東」
第63回ヴェネチア国際映画祭 オリゾンティ部門 ドキュメンタリー作品賞/オープン賞
第5回台湾ドキュメンタリー映画祭 最優秀アジア・ドキュメンタリー賞
2007
「無用」
第64回ヴェネチア国際映画祭 オリゾンティ部門 最優秀ドキュメンタリー作品賞
2008
『四川のうた』
第61回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品
第1回華語十佳頒獎典禮 トップテン映画
2010
「海上伝奇」
第63回カンヌ国際映画祭 ある視点部門正式出品
第7回ドバイ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー映画賞
第30回ハワイ国際映画祭 ドキュメンタリー賞
第2回華語十佳頒獎典禮 最優秀ドキュメンタリー賞
2013
『罪の手ざわり』
第66回カンヌ国際映画祭 脚本賞
第17回トロント映画批評家協会賞 最優秀外国語映画賞
第77回フランス映画批評家協会賞 最優秀外国映画賞
第7回アブダビ映画祭 最優秀作品賞
第50回金馬奨 最優秀音楽賞/最優秀編集賞
第36回デンバー映画祭 クシシュトフ・キェシロフスキ賞(作品賞)
第40回ゲント映画祭 最優秀映画音楽賞
第4回華語十佳頒獎典禮 監督賞/主演女優賞/主演男優賞/トップテン映画
2015
『山河ノスタルジア』
第68回カンヌ国際映画祭 パルム・ウィスカーズ賞
第63回サン・セバスチャン国際映画祭 観客賞(ヨーロッパ映画)
第52回金馬奨 オリジナル脚本賞/観客賞
第9回アジアン・フィルム・アワード 最優秀脚本賞
第23回北京大学生電影節 監督賞
第23回クロトゥルーディス賞 編集賞
第14回国際オンライン映画賞 ハーフウェイ賞主演女優賞
第33回マイアミ映画祭 最優秀演技賞
第22回ミンスク国際映画祭 傑出映画賞
第19回オンライン映画批評家協会賞 優秀米未公開映画賞
第21回サンディエゴ映画批評家協会賞 最優秀外国語映画賞
第24回上海映画批評家協会賞 優秀賞
2018
『帰れない二人』
第71回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品
第54回シカゴ国際映画祭 監督賞/女優賞
第12回アジア太平洋スクリーン・アワード 女優賞
第41回デンバー映画祭 特別賞
第39回マナキ兄弟国際撮影監督映画祭 シルバーカメラ賞
第13回アジア・フィルム・アワード 最優秀脚本賞
第19回ダブリン国際映画祭 審査員特別賞
第25回ミンスク国際映画祭 監督賞/女優賞
第10回華語十佳頒獎典禮 監督賞/主演女優賞/主演男優賞/トップテン映画
第27回上海映画批評家協会賞 優秀賞

監督の言葉

中国語題「江湖儿女」が示すもの

中国語題「江湖儿女」(江湖の息子たちと娘たち)は、「田舎町の春」(48/原題:小城之春/2002年にティエン・チュアンチュアン監督が『春の惑い』題でリメイク)で知られる中国映画の巨匠監督フェイ・ムーが最後に取り組んでいた企画名から借りました。フェイ・ムー監督が書いたその脚本はのちにチュー・シーリン監督が旅芸人一座の物語“江湖儿女”(52/英題:THE SHOW MUST GO ON)として映画化しました。私の映画はその物語とは何も関係ありませんが、この中国語題をとても気に入っています。“儿女”という言葉は、愛し合い、憎み合う、男と女を暗示しています。“江湖”は“川と湖”という文字以上の意味があり、言葉にするのは難しいのですが、“真に危険な世界”“激しい感情の世界”をも表します。この二語を組み合わせると、世間の流れに逆らおうとする人々、優しさと敵意、愛と憎しみによって生きる人々を想起させます。

『帰れない二人』で描かれる3つの時代と江湖

“江湖”は故郷を持たない流浪の民の居場所です。この映画の一つ目のパートにおいて、山西の裏社会での、新しい世代の台頭と古い世代が抱く危機感として“江湖”が出現します。荒れ果てた土地、寒々しい気候、古びた炭鉱という舞台は西部劇のようでもあります。二つ目のパートは、ダム建設で村ごと消えてしまった長江の三峡ダム地区が舞台です。主人公チャオは人に騙され、その後、人を騙します。社会の片隅で生き抜く術を身に着けるのです。山西に舞台が戻る最後のパートで、ビンは新たな旅に出ます。彼には、内なる激情を解き放つ“江湖”が必要だったのです。そこは、チャオが留まることを選ぶ場所でもあります。

たどり着けない場所

中国の北西部奥地の新疆のウルムチ、チャオが『帰れない二人』の中で決してたどり着けない場所です。おそらく誰にでもそのような、決してたどり着けない場所があると思います。距離の問題だけでなく、新しい人生を送ることはとても難しい。愛や記憶、習慣といった感情の束縛から逃れられないのです。それでも自由になろうともがく時、その結果はその人の尊厳を反映するものになります。

激動の変化を経験した、現代中国のラブストーリー

『帰れない二人』のチャオとビンは、社会の片隅で秩序に刃向かって生きています。彼らの苦境に共感を覚えます。駆け出しの頃の私の人生を思い出すのです。その当時、自分の思うままに社会の真実を表現する映画を作ることは危険でした。そのため、失われた青春と将来についての空想という脚本執筆に没頭しました。 この映画は21世紀初頭の中国から始まり、2018年で終わります。私はいつも長い期間にわたる物語に興味がありました。時間には、人々の秘密や物語、経験が保管されています。そこで私は、私が歩んできた48年間の人生を使って、歴史的にも激動の変化を経験してきた現代中国を舞台にしたラブストーリーを語りたいと思ったのです。

撮影
エリック・ゴーティエ Eric GAUTIER

1961年4月2日生まれ、フランス出身。『モーターサイクル・ダイアリーズ』(03/ウォルター・サレス監督)で英国アカデミー賞ノミネート、インディペンデント・スピリット賞受賞など、力強くも美しい映像で高い評価を得る。これまでショーン・ペン監督『イントゥ・ザ・ワイルド』(07)、アン・リー監督の『ウッドストックがやってくる!』(09)など話題作も手掛ける一方、『クリスマス・ストーリー』(08/アルノー・デプレシャン監督)、『クリーン』(04/オリヴィエ・アサイヤス監督)、『愛する者よ、列車に乗れ』(98/パトリス・シェロー監督)などフランスの名匠たちの常連として多くの作品に参加。そのほか『ポーラX』(99/レオス・カラックス監督)、『風にそよぐ草』(09/アラン・レネ監督)、『オン・ザ・ロード』(12/ウォルター・サレス監督)、『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(14/オリヴィエ・ダアン監督)、『喜望峰の風に乗せて』(17/ジェームズ・マーシュ監督)などがある。待機作に、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホークらが出演、是枝裕和監督がメガホンを執る日仏合作「La Verite(仮題)」がある。

音楽
リン・チャン 林強 LIM Giong

1964年6月7日生まれ、台湾出身。DJ、歌手、作詞作曲家、音楽プロデューサー、俳優など多方面で活躍。これまで数々の作品でジャ・ジャンク―監督とタッグを組んでおり、『世界』(04)、『長江哀歌』(06)、『四川のうた』(08)などの映画音楽を手掛け、『罪の手ざわり』(13)では、第50回金馬奨最優秀音楽賞を受賞。2007年には、同監督作に提供した楽曲を集めた『賈樟柯電影音樂作品集』をリリースした。また、ホウ・シャオシェン監督からの信頼も厚く、役者として『戯夢人生』(93)、『好男好女』(95)などに出演。『憂鬱な楽園』(96)では出演と音楽も手掛け、高い評価を得た。同監督『黒衣の刺客』(15)では、カンヌ国際映画祭最優秀映画サントラ賞に輝いている。そのほか『台北暮色』(17/ホアン・シー監督)、オムニバス映画『アジア三面鏡2018:Journey』(18)などがある。