冬、いまにも雪が降るような寒さの中、先輩に会うためにソウルを訪れた映画監督ソンジュン。北村という街に先輩のヨンホがいる。先輩に電話するが、出ない。「来る前に電話すれば良かった」と後悔するが、行く所もない。一人酒を飲んでいると、ソンジュンの作品を観たことがあると言う3人の映画学生たちが声をかけてくる。ひとしきり映画論で盛り上がり、次の店で騒ごうという話になるが、ソンジュンは学生たちを置いて、2年前に別れたキョンジンのアパートを訪ねる。キョンジンは、突然現れたソンジュンをなじるが、どうやらまだ未練があるようだ。ただの暇つぶしか未練なのか、わからない一夜を過ごし、やっとヨンホ先輩に会えたソンジュン。先輩の連れてきたポラムという映画学科の教授も一緒に誘われるまま食事をし、「小説」というバーに流れた。ヨンホ先輩は認めないが、ポラムに気があるようだ。バーはいつも客が先にいて、後からオーナーがやってくる不思議な場所だった。遅れてやってきた、その店のオーナーを見たソンジュンは、昔の恋人そっくりの彼女にたちまち魅了される。ソンジュンは店にあったピアノをつま弾いたり、タバコを吸うために店の外に出たり落ち着かない。ポラムは「20分後、偶然に映画に関連する四人に連続的に会ったことがある」と意味ありげな言葉をはいたりしている。翌日、再びバーを訪れたソンジュンは、買い物に行く彼女と一緒に外に出て、当然のごとくキスをした。寒い冬の夜の路上に雪が舞っていた。また翌日、ソンジュンはバーを訪れた。お客が帰ったあと、ソンジュンは彼女と一夜をともにした。
翌朝、ふたりはもう会わないという約束をして別れるのだった。
彼女との出会いは偶然なのか必然なのか? ミステリアスな雰囲気を身にまとう美女とひとりの映画監督。お互いに惹きつけられながらも、一緒にいることが出来ない。そんな感情の揺れを美しいモノクロの映像で描く、偶然の出会いと別れ。粉雪が舞う路上でのキスシーンが秀逸なクラシック映画を思わせるホン・サンスの新境地。当初はカラー作品の予定だったが、撮影の美しさに、クランクアップ後、監督自身の提案によりモノクロで仕上げられた。
2011年/韓国/モノクロ/79分
脚本:ホン・サンス
撮影:パク・ヨンヨル、ジ・ヨンジョン
編集:ハム・ソンウォン
ユ・ジュンサン
キム・サンジュン(「私の男の女」)
ソン・ソンミ(『マイ・ボス マイ・ヒーロー』)
キム・ボギョン(『友へ チング』)
俳優たちのアンサンブルは完璧で、
余計なものを切り捨てた撮影は、
ソウルの街を、繊細きわまりない喜劇の舞台に変える。
———スクリーン・デイリー誌
安らぎを求める主人公たちを舞い散る雪の中に置く。
そして、その雰囲気が観る者を魅了する。
ホン・サンスはロメールのように素晴らしい
———ヴィレッジ・ヴォイス誌
ホン・サンスの映画は
しばしばエリック・ロメールの映画に比べられる。
『満月の夜』の作者と同様、ホン・サンスは、
俳優の演技を最大限に引き出し、
心の中の現実を生き、
言葉の端々に真の感情や欲望をにじませ、
現実について語りながら、運命を浮き上がらせる。
———ル・モンド誌