BACKGROUND
『国境の夜想曲』を読み解くための
キーワード
舞台となる国と地域
- シリア(シリア・アラブ共和国)
- 首都:ダマスカス|主な言語:アラビア語|主な宗教:イスラム教が大半(スンニ派が多く、その他アラウィー派、ドゥルーズ派など)、キリスト教。
- イラク(イラク共和国)
- 首都:バグタード(バグダット)|主な言語:アラビア語、クルド語など|主な宗教:イスラム教(スンニ派、シーア派)、キリスト教など。
- レバノン(レバノン共和国)
- 首都:ベイルート|主な言語:アラビア語|主な宗教:キリスト教(マロン派、ギリシャ正教、ギリシャ・カトリック、ローマ・カトリック、アルメニア正教)、イスラム教(シーア派、スンニ派、ドゥルーズ派)など。
- クルディスタン
- トルコ、シリア、イラク、イランの国境にまたがる山岳地域。クルド族の居住地。北西イランのマハーバードでは1946年にクルド人民共和国が樹立されたがイラン軍によって解体された。国連安全保障理事会はイラク北部北緯36度以北の地域をクルド人のための安全地帯と定め、多国籍軍が監視している。
宗教・宗派
- ジハード
- 「全力を尽くして努力する」「真実を知るための努力」などの意味のアラビア語。イスラム教の文脈のなかで、イスラム過激派の解釈では神の道のために異教徒と戦う「聖戦」という限定的な意味も持つ。「ジハーディスト」は9.11米同時多発テロ以降、イスラム過激派のテロ実行者を指す造語として欧米で使われるようになった。
- スンニ派
- イスラム教の多数派を指し、シーア派と対比して用いられる呼称。スンニはアラビア語のスンナ(範例)の形容詞形。彼らは「スンナと共同体の民」と自らを呼ぶが、その意味はムスリム共同体全体に伝えられた範例に従う者の意である。
- シーア派
- スンニ派とともにイスラム教を二分する諸分派の総称。スンニ派に比しその数は圧倒的に少ない。スンニ派と大きく異なる点として、イスラム世界の指導者はムハンマド預言者の子孫であるべきと主張。
- ヤジディ教(ヤズィーディー、ヤズディ教)
- イラク北部などに住むクルド人の一部で信じられている民族宗教。居住区はイラク北部に広がり、周辺の宗教勢力、武装勢力との対抗上、イスラム過激派武装勢力の攻撃対象となる。
武装集団と過激派
- タリバン
- アフガニスタンの公用語、パシュトゥー語で「学生たち」を意味する。1979~89年のソ連のアフガニスタン侵攻に抵抗したムジャヒディン(イスラム・ゲリラ組織の戦士)によって形成された。タリバンは、2001年9月11日の米同時多発テロが起きるまで、長年にわたって国際テロ組織アルカイダをかくまっていたとされる。2001年10月、アルカイダの撲滅を目指すアメリカ主導の有志連合軍が、アフガニスタンへの攻撃を開始。タリバンを権力の座から追放した。
- アルカイダ
- 2001年9月の米同時多発テロの首謀者とされるサウジアラビア人のビンラディン容疑者が結成した国際テロ組織。旧ソ連のアフガニスタン侵攻と戦うイスラム戦士を支援するために1988年ごろ結成された。91年の湾岸戦争で米軍がサウジアラビアに駐留すると、対アメリカ聖戦に転換し、98年のタンザニア・ケニア米大使館同時爆破事件など複数の大規模テロを行った。11年5月にパキスタンで米軍特殊部隊の攻撃によりビンラディン容疑者は殺害された。
- ISIS(イスラム国)
- イスラム教スンニ派の過激派組織。一時、シリアやイラクにまたがる地域を支配し、2014年6月、イスラム法の過激な解釈に基づいた「国家」の樹立を一方的に宣言した。国際テロ組織「アルカイダ」を母体とするが、アルカイダの命令に従わず、「破門」にされた経緯がある。イスラム教の預言者ムハンマドの後継者「カリフ」が全世界のイスラム教徒を指導するとした「カリフ制」の再興と、植民地として中東で人為的に引かれた国境線の廃止などを目指している。「ジハード(聖戦)」を呼びかけ、異教徒や外国人、支配を拒否する現地住民などに対する残虐な行為で知られる。指導者・アルバグダディは、2019年にアメリカ軍の作戦によりシリア北西部で殺害したとアメリカ政府が発表。
- ムジャヒディン軍
- イラク・フセイン政権崩壊後の2004年11月に結成されたスンニ派武力勢力。イラクに駐留する多国籍軍の排除などを掲げてきたが,2011年12月の駐留米軍撤退後は,政府の打倒に重点を置き,主に北部・キルクーク県や西部・アンバール県で治安部隊などに対する攻撃を行ってきたとされる。
- ペシュメルガ
- イラク北部クルド自治政府の治安部隊。クルド語で「死と対たい峙じ する者」を意味し、強力な装備と練度の高さから、戦闘力は一国の軍隊に匹敵するとされる。兵力は約22万人で、クルド自治区の治安維持を担う。クルド独立を目指す戦闘集団として組織され、一時は内戦で分裂。
- クルド女性防衛部隊(Women's Protection Units [略称YPJ])
- 2012年に左翼民兵クルド人民防衛隊(YPG)の女性旅団として設立された、武装集団。YPGとYPJは、ロジャヴァと呼ばれる、シリア北部から北東部を事実上統治しているクルド人連合の武装部門である。
【参考文献】「中東から世界が見える イラク戦争から「アラブの春へ」」(酒井啓子・岩波ジュニア新書・岩波書店)/「イスラーム国の衝撃」(池内恵・文春新書・文藝春秋)/「ジャスミンの残り香―― 「アラブの春」が変えたもの」(田原牧・集英社)/ 朝日新聞/ 毎日新聞/ 日本経済新聞/ 時事通信/Wikipedia / ニューズウィーク日本版/PRESIDENT Online /NHK NEWS WEB 中東解体新書/WIRED/ withnews
周辺地図
ISIS(イスラム国)は2014~ 15年に中東での支配地域を最大にしたが、アメリカ主導の有志連合やロシアなどが軍事作戦を本格化させたことや、中東の各地域の武装勢力が攻勢を強めたことから退潮した。しかし、2016年以降は世界各国の武装組織とイデオロギー的なつながりにおいて活動地域を拡げ、多くの国の安全にとって脅威とみなされている。