◆イントロダクション◆
心にも明りを――名もなき電気工の物語
キルギスの小さな村の電気工。村人たちは彼のことを“明り屋さん”と呼ぶ。明り屋さんは、裕福ではない家に無料で電気を使えるように細工するなど、村人たちのことを第一に考え、みんなから愛される純朴な男だ。そんな中、ラジオから政治的混乱のニュースが流れ、都会から価値観の違う者がやってくる。田舎の村にも変化が起きようとしていた・・・。
『明りを灯す人』は、中央アジア・キルギスの小さな村を舞台に、政治的変革に翻弄されながらも慎ましく生きる人々の未来への希望を詩情豊かに描く。文明の発展だけに頼るのではなく、人間本来の生活を尊重する人々の姿は、観る者の心をきっと揺さぶるに違いない。
主演男優賞受賞!――俳優アクタン・アリム・クバト誕生!!
『明りを灯す人』は、『あの娘と自転車に乗って』『旅立ちの汽笛』で世界中の人々を至福の感動で包み込んだアクタン・アブディカリコフ監督の9年ぶりとなる最新作。自伝的3部作を撮り終え、自分の内に抱えていた重荷を取り払い、新たな一歩を踏み出す意味も込め、名前をロシア名の<アブディカリコフ>から、キルギス名の<アリム・クバト>に変え本作を発表。更に今回は、演出だけでなく主人公の“明り屋さん”も演じた。本格的な演技初挑戦にもかかわらず、ロシアで行われたキノショック映画祭にて主演男優賞を見事受賞。監督だけでなく役者としても世界的に認められる存在となる。
プロデューサーには、アカデミー外国語映画賞を受賞した『ノー・マンズ・ランド』のチェドミール・コラール。世界中の優れた才能を、国境を越えてコーディネートする手腕に長けた彼のプロデュースにより、5カ国からの出資を得、キルギスでの困難な映画製作を可能にした。
名匠アクタン・アリム・クバトの未来への願い――独立宣言から20年のキルギス
91年にソビエト連邦が崩壊し誕生したキルギス共和国。独立宣言から20年、資源に乏しいこの国の経済は伸びなやみ、幾度かの政変により人々の生活は常に不安定である。本作では、都会でのデモの様子がラジオやテレビのニュースとして報道される。これは2005年の<チューリップ革命>の様子である。議会選挙での不正がきっかけとなり、独立時から大統領であったアカエフの辞任を求める大規模な抗議運動が起った。アカエフは逃亡し政権は崩壊。その後、バキエフが大統領になるも、政治・経済の改革は遅々として進まず、政情不安定が続く。そして、2010年、国民の不満が高まり、大規模なデモが発生。バキエフも逃亡し政権は崩壊する。その後、南部のオシュでキルギス系とウズベク系の民族衝突が発生し、3000人以上の人が犠牲となった。
本作で描かれる小さな村の出来事は、そのような現在のキルギスの国状になぞられる。アクタン・アリム・クバト監督は、ただ単に自国の状況を嘆くのでない。自身が演じた“明り屋さん”が村人たちのために明りを届けるように、本作を通して、勇気や希望、笑いや喜びといった明りを、キルギスの人々の心に灯してゆくのである。