作品情報

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  • プロダクションノート
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監督・脚本:吉田康弘 よしだ・やすひろ

1979年7月5日、大阪府出身。なんばクリエイターファクトリー映像コースで井筒和幸監督に学ぶ。同監督作品『ゲロッパ!』(03)の現場に半ば押しかけるように見習いとして参加し、映画の世界へ。その後、『パッチギ!』(05/井筒和幸監督)、『村の写真集』(05/三原光尋監督)、『雨の街』(06/田中誠監督)、『嫌われ松子の一生』(06/中島哲也監督)などの制作に参加。07年、石田卓也、大竹しのぶ主演映画『キトキト!』で監督デビュー。初メガホンをとった作品は、型破りな母子の物語として話題になった。脚本家としても活躍しており、井筒和幸監督作品『ヒーローショー』(10)、『黄金を抱いて翔べ』(12)では脚本を担当。本年は本作のほか、『江ノ島プリズム』の公開も控えている。

映画製作に至ったいきさつを教えてください。

澤プロデューサーから連絡があって、政岡プロデューサーと一緒にお会いしました。そこで南大東島のドキュメンタリー番組を観させていただき、それですぐにビビッときました。最後のコンサートに娘を送り出す場面で母親が彼女の髪を結う。母娘が互いに涙を流す姿も感動的でしたが、それを黙って見つめる父親の視線に強く胸を打たれました。家族とともに成長する女の子の話だけど、最終的には“父娘”の話に持っていきたいと考え、「行ってきます」「行ってらっしゃい」で終わるラストシーンが浮かんだとき、これはいけるんじゃないかと思いました。最初に書いた粗いプロットの時点から、父娘の別れの話という骨組みが出来上がっていたと思います。

どういった取材を行いましたか?

まずは島を知るべしと思い、なんのアポもとらずにプロデューサーと3人で南大東島に行きました。新垣先生の民謡教室にお邪魔して民謡を聞かせて頂いたり、船にクレーンで吊られて乗船し、北大東へ渡ったりしました。最初のシナハンにしては収穫が大きく、これは映画になる! と確信しました。と同時に、この題材を映画にするには、沖縄の人たちと手を組む必要があると考え、パートナーを探し、取材を徹底しました。何度も島に行き、子どもたちや島民の皆さんにお話を伺ったり、那覇で暮らす大東出身の人たちの話を聞いたり。現役の高校生に、「島を出てきた直後ってどうだった?」と聞くと「信号を渡るのが怖かった」「バスに乗るのが怖かった」「学校で誰ともしゃべれない時期があった」と言っていて。そんな子どもたちを送りだす親の心境って相当不安だろうな、と思いましたね。やはり最初の子を送りだす時に、母親が一緒についていくケースは少なくないようです。

実際に南大東島に行った印象はいかがでしたか?
また生で聞くボロジノ娘はいかがでしたでしょうか?

やはり沖縄の離島なので南国のリゾート的なイメージを持っていたのですが、「北海道か、ロシアかここは?!」と思わせる風景で驚きました。地形がすり鉢状になっていて、見渡す限り広大なさとうきび畑。どこからも海が見えず、果てしない大地が続いているように錯覚する。360度、黒くてごつごつした岩肌でビーチがない。太平洋の真ん中で波も荒い。そこで、「ここでの島唄はブルースだ」と思いました。「なんくるないさ~」と皆で陽気に歌うのではなく、海に向かって三角座りをしながら、独りで歌っているイメージ。一方、島の子どもたちは、めっちゃめちゃ元気でした。大人たちは子どもの顔をみんな知っていて、自分の子のように叱ってくれる。目を離しても誰かが見ていてくれる。まさに島がひとつの家族のようで、これが日本の原風景なのかなと。
厳しい大地で粛々と生きてる人がいる、日本の端っこの小さな家族の話を繊細に丁寧に描くんだ、という気分になったんです。この映画は、外から見た沖縄を描くのではなく、もっとリアルな沖縄の、良いところも悪いところもちゃんと見せる映画にしたいと思いました。
ボロジノ娘はとにかく「ものすごくかわいいな」と思いました。映画を撮影している頃は中学生はひとりだけであとは小学生ばかりでした。目上の女の子たちが下の子の着付けをしてあげたり、叱ったりして、ものすごく可愛がってる。ここに自分の娘を入れたいと思いましたね(笑)。民謡教室をしている新垣先生は「子どもでもプロ」という考え方で、常にステージでお客さんに向かって演奏する感覚を養わせているんです。日本の端っこの民謡教室なのにものすごく厳しいんですよ。毎日学校帰りにみんな休むことなく通っていました。「アバヨーイ」は、文香役を演じた野吾沙織さんに、那覇でお会いしたときに歌って頂いたのですが、スタッフ皆がその迫力に圧倒されました。

この題材を元に家族の話に焦点を絞ったのはなぜでしょうか。

「アバヨーイ」の歌詞ですね。明らかに娘が親への感謝の気持ちを歌った唄なんで。これを最後に歌うということは、家族と島で生きる少女の話におのずとなると思いました。最初は小さな家族の普遍的な話にしようと思っていたんですが、少しずつ“島の宿命”みたいなものがテーマになり、この島に課せられた宿命の中で成長していく14歳の女の子が15歳の春を迎える話、にスライドしていきました。
もうひとつの大事なテーマとして“距離”がありました。距離って人によって感じ方が違う。沖縄本島から南大東島まで360km離れているのを遠いと思うか近いと思うかは人によると思うんです。最初、優奈は圧倒的に遠いと思っていたけれど、島を出るときには少し変わっている。遠いけど、近いと思いたい。そんな心境になれることが、強くなることじゃないかなと。その距離の感覚を主人公が考えるようになることがもうひとつのテーマでした。
この映画は島の人だけじゃなくて、沖縄中の15歳に見てほしいと思っています。僕の子が15歳になった時にも見せたいですね。また、家族が離れて暮らさざるを得ない二重生活は、震災で二重生活を余儀なくされている方々にも響くのではないか、と思いました。

出演者の演出はどのようになさいましたか?

三吉さんの芝居は、最初にリハーサルをした時点で一切不安は消えました。ただ、「島で生きてる子」、「東京のあなたじゃないよ」ということはできるだけ言わないとな、と思っていました。彼女は三線を気に入って「楽しい、面白い」と、のめり込んでました。実際、覚えが早いと新垣先生も褒めてました。でも島唄は、節回しとか民謡独特の発声などが難しかったようで苦労していましたね。それでも、まったく弱音を吐かなかったので、大したプロ根性だと思います。
大竹さんは前作『キトキト!』でご一緒しているので、衣裳合わせで話したことがすべてでした。映画のテーマのひとつである“距離”について、年月も含めてもっとも深く関係するのが母親の明美役でした。はじめは「すごくワガママで身勝手なお母さんじゃないの?」と仰られたんですけど、明美が家族と離れて何年経っていて、その間にどういうことがあったか、姉の美奈に何故つきっきりになったのか、など映画では描かれない設定の話をしました。明美が背負う“島の宿命”を表現する為に、姉が母親の気持ちを代弁するシーンもあるし、他の島人が語る部分で明美の苦悩を匂わすシーンもある。直接的じゃないやり方で表現したいのは、この物語を中学生である優奈の目線で運びたいからだということを説明したら納得して頂けました。とても難しい役を、見事に演じきって頂き、さすがだなと思います。
小林薫さんは、最初にモニターを通して座っている姿を観たときに「この人はなにも言わなくても画になる」と、思わずニヤけてしまいました。すごく嬉しくて、密かにガッツポーズしたんです(笑)。撮影前にシーンの段取りの打合せをする機会が多かったのですが、そのときに「ここはこうした方がいいんじゃないか?」などの助言を頂いて。衣裳や小道具の提案もたくさん出して頂き、ある意味、一緒に父親像を作っていった感じです。小林さんが演じた利治は、目線ひとつとっても、凄く優しいんです。何もしていなくても「この親父は娘をこう見るんだ」と、それだけで十分伝わる。過剰な演出は必要ないと、勉強させてもらいました。

現地の協力はいかがでしたでしょうか。

本当にとてもよく協力してくださいました。撮影時期は、さとうきびの収穫で忙しいときだったんです。それにゴールデンウィークは那覇にいる親族に会いに島を出る方が多い。それを、「今年のGWは島に残ってください!」とお願いして。天候も不安定なので予定通りに撮影ができなかったのですが、突然に「エキストラがほしい!」となっても、皆さん快く協力してくださいました。
沖縄在住のスタッフの人にも「言葉おかしかったら、絶対言ってください!」とお願いしました。なので、たとえば照明部が、撮影中に照明どころじゃなくなって「今のはおかしい! 今の言葉の発音はね……」と教えてくれるんですよ。すごく恵まれた環境でした。

BEGINが書き下ろした主題歌はどのように生まれたのでしょうか。

クランクイン前にBEGINの3人とお話する機会を頂いて、どういう映画になるか、ということをお話しました。「ザ・沖縄」という映画ではなくて、沖縄の方が納得するような映画にしたい、リアルな曇り空の沖縄を映画で表現したい、とお伝えしたところ、こういったエンディング曲を頂きました。島を出るボロジノ娘が歌う「アバヨーイ」は旅立つ唄ですが、「春にゴンドラ」は見送る側と旅立つ側のどちらの想いもこもった曲。初めてラストシーンに、あてて見たとき、あまりにぴったりきて、鳥肌がたちました。このエンディングは、最高に決まってると思います。

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