ある日母は私に突然、汾陽の実家の鍵を渡しました。「これはあなたの家の鍵だからね」と母に言われた時、私はハッとしました。長いこと故郷を離れていた私は、実家の鍵を持つことがありませんでした。私はいかに、自分が彷徨い漂泊する生活を送っていたのかと、強く思いました。
小さな田舎から都会へ出てくる、仕事のために点々と違う街へ移っていく。
多くの人は、自分の可能性を求めて生きています。
ところが、同時に失うものもあります。僕にとっては、それが鍵だったのです。
そして、そのことを私に教えてくれたのは、「時間」だったと思います。
2013年に『罪の手ざわり』を撮影し終わって、私の興味は生きている人たちのプライベートな気持ちの部分へと移りました。 本作では、はっきりした事件や暴力を描くのではなく、時代の流れに影響を受けている人たちの「感情」に焦点を当てています。 ぜひ、彼らの細かい心のひだに触れてみてください。
―ジャ・ジャンクー(賈樟柯)
(2015年11月 東京フィルメックス来日時のインタビューより)