
実際に起こった事件を基に、映画は大切に育ててきた我が子を失った“産みの親”の底知れぬ悲しみと恐怖、苦しみを丁寧に描きつつ、誘拐犯の妻である“育ての母親”の葛藤も繊細に描写する。子どもを失う苦しみを3年ものあいだ実の親に味わわせていたことへの懺悔、一方で非常識だと罵られても溢れでる子への愛……。「愛する我が子を誰にも奪われたくない。ただ一緒にいたい」という、すべての親が抱くシンプルで普遍的な願いを彼女もまた抱いているからこそ、その偽りない愛情に誰もが心を動かされずにはいられない。善か悪かのジャッジも、“子を奪われた被害者”と“子をさらった加害者”という関係性も超えた、親が子を思う「至上の愛」、子が親を慕う「無垢な愛」の深さにただただ、圧倒されるしかない。