<海外レビュー>
人の心の温かさ、人間同士の深い絆を描きだす。
これまでのダルデンヌ兄弟の作品に連なる、感動的な人間ドラマ。
Absolutely brilliant!
まったく見事。
ダルデンヌ兄弟の才能の全てがここにある。
そして、ダルデンヌ兄弟のスタイルで演じるアデル・エネル。
ナイフのように鋭い彼女に対してふさわしい唯一の形容詞は「天才」だ!
優しく、同時に荒々しい。
女性の心の中へ飛び込む新たな試みに、
ダルデンヌ兄弟はいつもの手練れの技をつぎ込んだ。
それにこたえるアデル・エネルは、
事態に圧倒されながらも決然と進むジェニーを演じて見事だ。
空気感さえ完璧にコントロールされた、
人間心理をめぐるサスペンス。
効率的に語られる物語の背後に、慎ましく、傷つきやすく、
ニュアンス豊かに脈打つ魂を隠し持つ作品は稀である。
『午後8時の訪問者』は沈黙を破る必要性をめぐる挑戦的で見事な作品だ。
言われなかった言葉とその悲劇的な結末、再び見出された言葉と
その癒しの効果を描き、無関心と責任感、欲望と後悔、嘘と絶対的に真実を
求めようとする熱情の両方を併せ持つ人間の不確かさを明らかにする、
意義深く美しい映画。
見事な女優アデル・エネルがその形を与えた、力強い映画。
これまでの主題にもこだわりながら、
ダルデンヌ兄弟は自身を新たに作り直した。
個人の責任という主題をめぐる新たな、そして鋭い社会的寓話。
ダルデンヌ兄弟のダイヤの原石。
スリラーのように鋭いスタイルの『午後8時の訪問者』は
ダルデンヌ兄弟の秀作だ。
アデル・エネルの見事な演技がそれを支えている。
そのエネルギー、鋭敏さ、時に純真な子供のような、
時に女戦士のような二面性、すべての場面を突き動かしてゆく原動力で
アデル・エネルは私たちを魅了する。
サスペンス的な物語を通じて人間存在をめぐる真実を追求する。
<コメント>
素晴らしい映画だった。
監督の眼差しにぐいぐい引き込まれてゆく。
まるで自分がこの映画の世界に(中に)入り込んだような感覚だ。
ヒロインの呼吸と自分の呼吸が一緒になり
スクリーンに目をこらし耳をすます。
そしてリアルな俳優たちのお芝居に圧倒され…大きなため息をついた。
これこそ映画だ。
竹中直人(俳優/映画監督)
主人公を演じたアデル・エネルが素晴らしかった。
本人に罪はないのに主人公が罪悪感にとらわれる、その物語と演出が面白い。
とても気に入っています。
内山昂輝(声優)
誰にでもありうる過失。
それに報いようとする主人公ジェニーの、
物静かだが力強い誠実さに心を動かされる。
津村記久子(小説家)
シーンの的確さ、脚本の深みと削ぎ方に震えました。
登場するすべて「ドア」が他者と自分、善と悪、現実と映画など、
ふたつの別世界を遮り、繋ぐ象徴に見えて…。
西寺郷太 (NONA REEVES)
患者への共感と同時に冷静な決断力のバランスが医師には不可欠だ。
また自分の一瞬の行動や何気ないひとことが人の命にかかわるという責任。
その重さに気づいて歩み始めたとき、医師としての人生がスタートする。
シャワーを浴びた髪を乾かす間もなく束ね
患者と向き合うジェニーがいとおしく
若いころの自分の姿が重なった。
海原純子(心療内科医)
きれいなだけじゃないヨーロッパのもうひとつのリアル。1人の女の転機に乗せて胸に刺さりました。
犬山紙子(エッセイスト)
“自分の行動が誰かの苦悩を偶然救っていた”ことによって、
主人公は再び生きていける。
この救済は奇跡だ。観てよかった。
桜庭一樹(作家)週刊文春 2017年3月30日号より
観終わった後、心の底から「素晴らしい」と呟いていた。
現代を生きる私達に最も必要な温度を、心の中に優しく灯してくれる。
中村文則(小説家)
診療終了前後の駆け込み患者さんは、
何か訳を抱えている事がしばしばあります。
診療所や往診宅を舞台に日々繰り広げられる様々な人間ドラマに、
医師といえども否応なく引き込まれ、
仕事と私情の境を失くして一喜一憂し、時に眠れぬ夜々を過ごすこともある。
痛いほど身に覚えのある主人公の感情に、ハラハラと引き込ま
れ、それを引き受けて行こうと決する姿に我が身を重ねました。
アン・サリー(医師/歌手)
ダルデンヌ兄弟の作品が、
いつどんなときでも「いまこそ見るべき」と感じられるのは、
僕たちの「いま」が、見過ごされ忘却された
無数の痛みに貫かれていることを思い出させるからだ。
小野正嗣(作家)
ジェニーは医師の枠を超え、貧困という暴力に傷ついた人々を癒そうと試みる。
他者への共感は無駄な消費ではないと教えてくれる。
長島有里枝(写真家)
小さな街で懸命に生きる人々を絶対に見捨てない。彼らに人生のひとときを撮ってもらえる子供も大人も男も女もラッキーだな、なんて思う。
みなどこかで "INCONNU(E)" であり、それでも今を生きている確かさでもある。
静かなエンドロールに、胸が張り裂けそうだった。
明日、少し優しくなれる気がする。
世武裕子(映画音楽作曲家/アーティスト)
ミステリアスなヒューマン・サスペンスであり、
罪と、責任というものを考えさせられる、ディープな物語。
宇佐美亮祐(『このミステリーがすごい!』(宝島社)編集担当)
(敬称略/順不同)