ホン・サンス “だらけた日常を愉快に のぞきこんでみました”
パク・ソニ記者
○デビュー作『豚が井戸に落ちた日』(96)から『江原道の力』(98)、『オー!スジョン』(00)に至るまで、映画監督ホン・サンスが繰り返し描いてきたのは、日常の倦怠感と不条理、そして、まともに見える人たちの、ねじれた心情だ。それらを浮き彫りにする窓は男と女、いや、雄と雌の性をめぐる関係とコミュニケーション、あるいは断絶だった。
○『オー!スジョン』の後、2年ぶりに発表した最新作『気まぐれな唇』でも、世界を見つめるホン・サンス独自の目は健在である。ただし、語り口は愉快で、のんびりしており、決して辛辣ではない。ソウルに住むひとりの男が衝動的に家を飛び出し、1週間、チュンチョンとキョンジュを旅する。そして、旅先で出会った男や女が繰り広げる痴情、あるいは恋愛事件は、回転門のような循環構造の中に置かれている。本作でも、それ以前の作品に通じる鮮明な“自己複製”と“自己侮蔑”を隠さない。なぜそのように、さえない人たちや展望のない通俗性をさらけ出すことに重点を置いているのだろうか。
ホン・サンス:世の中には幸せに暮らしている人たちがいます。確かにいます。そんな人たちは、さておき、私はそうでない人たちを描きたいと思っています。
○自ら創り出した映画の登場人物のように、サバサバと本音を語るホン・サンス監督。
ホン・サンス:人を観察すると、その人が隠したいと思っていることや話していないこと、あるいは誇張していることなどが見えてきます。そんな姿は私自身の中にもあるということを認識し、連帯感を覚えることがあります。私はそんなことを基盤にして、その人たちに近づこうと努力しているのです。
○ホン・サンス監督の映画に登場する主人公は、お酒をたくさん飲む。それも実に美味しそうに飲む。緑色の焼酎のビンが、さまざまなシーンに登場し、主人公は酔いに任せて胸のうちをさらけ出す。撮影のたびに、俳優が本当にお酒を飲んで演じたという話が飛び交うが、今回もそうだった。
ホン・サンス:顔の筋肉が震えたり、口数が増えたり、呼吸が荒くなるといったことは、演技ではできませんよね? だからお酒を飲んで演技してもらったんです。酔うほどではなく、少し酒気を感じる程度に。
○監督自身もお酒が好きだ。特に焼酎、マッコリ〔濁り酒〕、ワイン、日本酒のような“強くない”お酒を好んで飲む。
○撮影当日にシナリオを渡し、しかも、前日に起きたことや話したことが、そのシナリオに入っていたそうですが、そのような“現場における即興”の意味は何ですか?
ホン・サンス:実は、撮る内容の70〜90%は事前に決めていました。どんな作家でも自分なりのやり方があるものですが、私は材料をもう少し広い所から集めたいというだけです。実在の人物や事件が映画にそのまま投影されることはありません。題材と距離を置くことは、とても重要です。その距離の中に想像力が加味されるわけですから。実際に起きたことをシナリオの中に取り入れるのは、ディテールを抽出するための手段にすぎません。
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