本作は、ダルデンヌ監督が2003年に『息子のまなざし』のプロモーションで来日した際、少年犯罪についてのシンポジウムで聞いた“赤ちゃんの頃から施設に預けられた少年が、親が迎えに来るのを屋根にのぼって待ち続けていた”という衝撃的な話に着想を得て作られた。親に見捨てられた少年シリルが、初めて信頼できる大人であるサマンサに出会うことで、心をひらき、人を信じ、善悪を学び、成長していく。サマンサもまたシリルに愛情を与えることで、自分の内にある母性に気づき、人を守ることの責任と喜びを知っていく。どんなに厳しい境遇におかれても、人は誰かとつながることで一筋の光を見出せる――。ダルデンヌ監督は、シリルとサマンサの小さな感情の機微を丁寧にすくいあげ、「彼ら(ダルデンヌ監督)の作品の中で最も優しい映画」(メトロ)と評されるように普遍的な珠玉の作品に仕上げている。
もうすぐ12歳になる少年シリル。彼の願いは、自分を児童養護施設へ預けた父親を見つけ出し、再び一緒に暮らすこと。ある日、シリルは美容院を経営するサマンサと出会い、週末を彼女の家で過ごすようになる。自転車で街を駆けまわり、サマンサと共にようやく父親を探しあてたシリルだったが、父親の態度はすげない。そればかりか、「二度と会いに来るな」と言い放たれる。シリルが実の親に再び捨てられる姿を目の当たりにしたサマンサは、恋人との間に軋轢を生んでしまうほど、これまで以上にシリルと真摯に向き合い始める。人との接し方、夜遅くに外出しないこと、悪いことをしたら誠意をもって謝ること……。サマンサとのふれあいのなかで、シリルの心も変化し始める。しかしそんな折、シリルが起こしたある事件がきっかけでシリルは窮地に追い込まれる。だが、生まれて初めて「帰るべき家」を手に入れたシリルは、自転車に乗って家路を急ごうとするのだった――。これは、人と人がつながることから生まれるかすかな希望を、綿密にあたたかく描いた「大きな愛の物語」である。
カンヌ国際映画祭で、2度のパルムドール大賞(『ロゼッタ』『ある子供』)、主演男優賞(『息子のまなざし』)、脚本賞(『ロルナの祈り』)、そして本作でグランプリを獲得し、5作品連続でカンヌの主要賞受賞という史上初の快挙を成し遂げたダルデンヌ兄弟。さらに2012年の第69回ゴールデングローブ賞では外国語映画賞にノミネートされた。主演にクリント・イーストウッド監督作品『ヒア アフター』(11)などで知られるセシル・ドゥ・フランスを配し、初めて有名な俳優を起用した。少年役シリルには、これが映画初主演となる新星トマ・ドレ。信じられる大人に出会えずに生きてきた少年シリルが少しずつ成長していく姿を自然に演じ、カンヌでは「主演男優賞候補」とも目された。ダルデンヌ作品常連のジェレミー・レニエが育児放棄する父親役で登場しているほか、同じく常連のオリヴィエ・グルメが居酒屋の店主役でちらりと顔を見せている。また、初めて夏に撮影しており、シリルの赤いTシャツや青々とした緑の木々、燦燦と注ぐ陽の光など、鮮やかであたたかな世界観を演出しているほか、有名俳優の起用や、劇中で映画音楽を使用するなど、新たな試みにも挑戦している。