監督

アクタン・アリム・クバト|監督・脚本・主演
Aktan Arym Kubat

1957年3月26日、キルギス、キントゥー村生まれ。ビシュケク美術専門学校を卒業後、プロダクションデザイナーとしてキャリアを積み、90年に短編ドキュメンタリー“A Dog Was Running”で監督デビューを果たす。その後、10歳の少年の大人の世界への目覚めを描いた中編劇映画「ブランコ」(93)が、第46回ロカルノ国際映画祭の短編映画部門で金豹賞(グランプリ)を受賞し、高い注目を集める。98年、長編劇映画デビューとなる『あの娘と自転車に乗って』が、第51回ロカルノ国際映画祭で銀豹賞(準グランプリ)に輝き、ヴィエンナーレ、東京など数々の国際映画祭で受賞を重ねる。01年には「ブランコ」『あの娘と自転車に乗って』に続く、自身の少年時代を描いた3部作の最終章『旅立ちの汽笛』を発表する。その後、9年の歳月をかけて完成させた、監督作にして初主演作『明りを灯す人』(10)は、第63回カンヌ国際映画祭監督週間に出品されたほか、ロカルノ、トロント、モントリオール、ヴェネチアほか数々の国際映画祭で上映され国内外から高い評価を受ける。また同作から、名前をロシア名の〈アブディカリコフ〉からキルギス名の〈アリム・クバト〉に変える。最新作『馬を放つ』では、メガホンを取る一方、熱い信念を秘めた主人公ケンタウロスを熱演。各国で絶賛され、第90回アカデミー賞®外国語映画賞キルギス代表に選ばれたほか、第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門アートシネマ連盟賞受賞、ベルギーMOOOV 映画祭2017最優秀作品賞受賞など受賞を重ねている。

<フィルモグラフィー>

1990 「A dog was running」(短編)
1992 「Where is your house, Snail?」(短編)
1993 「ブランコ」(中編)
1995 「Beket」(短編)
1996 「Beck-Terek」(短編)
1997 「Assan-Oussen」(短編)
1998 『あの娘と自転車に乗って』
2001 『旅立ちの汽笛』
2010 『明りを灯す人』
2011 「Ray dlya mamy」
2017 『馬を放つ』

アクタン・アリム・クバト監督 『馬を放つ』インタビュー

◆『馬を放つ』はどのように誕生しましたか?着想を教えてください。

キルギス人の祖先は遊牧民で、馬は自由のシンボルです。そうしたこともあり、馬をモチーフとして使いたいということは漠然と考えていました。物語自体は、私の村で起きた実話をもとにしています。ある時、村でサラブレッドが盗まれました。犯人を見つけ、盗んだ理由を問い詰めましたがなかなか言わない。さらに彼は自分でも馬をもっていたので、なぜ盗んだのか謎でした。しかし、よくよく聞くと売りさばきたかったわけではなく、単純に素晴らしい馬に乗ってみたかったという理由だったのです。このエピソードが私の胸に残っていました。次第に、この話に民族が抱える悩みや、歴史、伝統などの要素を入れて映画にしたいと考えるようになりました。

キルギスは、ソ連崩壊後26年前に独立して新しくなりました。それから様々な変化が起きていますが、自分の国のルーツがどれだけ大切なのか、それが分からないと本当の意味での発展はないと思っています。経済的な面と文化的な面は、平行している関係でなければならないと思うのです。こうしたことはキルギスだけに限ったことではなく、グローバリゼーションが進んでいるために世界中で起きていることではないでしょうか。しかし、必ずしも古い生活に戻った方が良いということではありません。変わっていく社会のなかで、自らのルーツを大切にし、自分は誰であるかを考えることこそが重要であると思うのです。そうしたことをこの作品で描きたいと思いました。
(※1991年8月に独立)

◆『馬を放つ』では監督自ら主演を務めていますが、どのような理由からですか?
また、主人公ケンタウロスのキャラクターについて教えてください。

私は何かを生み出すうえで自分に変化やハードルを課すことが大事だと思っています。それを超えたときに、これまでにない新しいものが出来ると考えるからです。慣れが出てきてしまうのは非常に良くないことです。監督だけではなく、主演をする理由もそこにあります。もうひとつ、映画で描きたいことは常に自分の内面の叫びからできているので、自ら演じることで、誰よりも繊細に伝えたいことが表現できると考えています。役者に淡々と言葉で説明するよりも、自ら主人公を演じれば、周りの役者たちからもより素晴らしいものが引き出せるのではないかとも思っています。監督と主演の両立について、大変でないかとよく聞かれますが、昔から支えてくれている家族のようなスタッフたちが周りにいてくれていたので全く問題はありませんでした。

主人公のケンタウロスについて。彼は少し変わった人物に見えるかもしれません。何故なら、彼のように純粋に良心に従って行動する人は少ないからです。今の社会には、彼のような人間の居場所はないのかもしれません。ケンタウロスは現代の犠牲者といっても過言ではないと思うのです。

◆美しい風景が印象的です。映画の舞台(ロケ地)について教えてください。

撮影したのはキルギスの首都ビシュケクから300kmほど離れた場所にあるトゥラスという村で、イシク・クル湖という美しい湖の近くにあります。首都は近代化されていて東京の街並みとほとんど変わりませんが、トゥラスでは昔ながらの生活や自然がたくさん残っています。過去の作品の多くもこの場所で撮影を行いました。よく生まれ故郷かと聞かれますが、そうではありません。言うなれば私の映画の生まれ故郷といえますね(笑)