ストーリー
シナンの夢は作家になること。
大学を卒業し、重い足取りでトロイ遺跡近くの故郷の町チャンへ戻ってきた。
シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きなイドリスとは相容れない。
「退職金をもらったら動物の育て方を教えてやる」とイドリス。
「給料は競馬につぎ込み、退職金はヒツジかヤギに」母アスマンがボヤく。
「明日は一緒に井戸掘りだ」
家族の言葉に耳を貸さないイドリスに呆れる家族。
シナンは道端で高校の同級生ハティジェと出会う。
ハティジェは大学には進学せず、家の手伝いをしていると言う。
「先生になるの?」シナンに尋ねるハティジェ。
「教職に就くか兵役に行くか……。この町には残らない。ここで腐りたくない」
シナンは気が進まぬままに教員試験を受ける。
父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。
本屋に行くと、地元で著名な作家スレイマンがいた。話しかけるシナン。
フランツ・カフカやアルバート・カミュ、ガルシア・マルケス、ヴァージニア・ウルフら作家の肖像写真がふたりを囲んでいる。
議論をふっかけ、失礼な言葉を発するシナン。
「僕の書いた原稿を読んでほしいんです」
ようやく本題を伝えられた時には、スレイマンはすっかりシナンの話にうんざりしていた。
「悪いが無理だ」
冷たく言い放ち、スレイマンは去ってしまう。
シナンの家。
シナンがコートのポケットを探るとあったはずの金がない。
誰が盗んだのか、と激昂するシナン。
「本の出版費用なのに…」
シナンが小説を書いたことを初めて知る家族。
シナンは町長や地元の経営者のもとを訪ねて出版費用を相談するが、相手にされない。
シナンが井戸に向かうと、大きな梨の木の真下で眠っているイドリスがいた。
「やあ お前か。眠っていたようだ。帰りはタクシーを呼ぶ。景気がいいだろ。なぜだと思う?」ニヤリと笑うイドリス。
シナンはある店でイドリスが大切にしている犬と引き換えに金を受け取る。
店を後にするシナン。
振り返ると犬がシナンをじっと見つめている。
シナンは出版されたばかりの処女小説「野生の梨の木」を持って帰宅する。
ページをめくると “最愛の母さんへ すべて母さんのおかげだ シナン”という文字。
「お前はいつかやると思ってた」母アスマンは感激しながら、パラパラとページをめくる。
しばらくの時間が経ち、シナンが兵役を終えて帰宅する。
イドリスは家にはほとんど帰らず、祖父の家に暮らしているようだ。
部屋の片隅に積み上げられた本の包みは、湿ってカビが生えていた。
出版した本を置いてもらった書店に行くが、5ヶ月の間、一冊も売れないままだった。
シナンはイドリスを訪ねに祖父の家に向かう――。