背景
チャナカレ
トルコ北西部に位置するマルマラ地方の県、および市名。ヨーロッパとアジアを分けるダーダネルス海峡のアジア側に面したエリアの中心都市の港町。トロイ遺跡やガリポリ半島への観光のアクセス都市であり、ヨーロッパとアジアを結ぶ海峡交通の要所としても利用される。劇中では、シナンが通った大学がある場所で、シナンの著書「野生の梨の木」のなかでも登場する都市。
チャン
チャナカレ県に位置する人口5万人足らずの町。劇中で、カラス一家が住んでいる。
世界遺産 トロイ遺跡
トロイは英語発音。イリオス、トロイアなどとも呼ばれる。ギリシア神話を題材としたホメーロスの長編叙事詩「イーリアス」の舞台となった場所で、「トロイの木馬伝説」で有名。1998年に「トロイの考古遺跡」として世界文化遺産に登録された。この「トロイの考古遺跡」が伝説上のトロイであるという決定的な証拠はないが、この遺跡の発掘が考古学の発展に与えた影響は大きく、そういった意味からも世界遺産に登録されている。
「トロイの木馬」伝説
ギリシア神話のトロイ戦争において使われた木でできた装置で、中に人が隠れることができるようになっている。この「トロイの木馬」の計略により、トロイは一夜にして陥落した。転じて、内通者や巧妙に相手を陥れる罠を指して「トロイの木馬」と呼ぶことがある。シナンが海沿いを歩く際に現れるチャナカレ港に面した公園に置かれた「トロイの木馬」はブラッド・ピット主演『トロイ』(04/ウォルフガング・ペーターゼン監督)で使われた映画の大道具。
ガリポリの戦い
ガリポリは英語発音で、現地の発音としてはゲリボル。第一次世界大戦中、連合軍が同盟国側のオスマン帝国の首都イスタンブール占領を目指し、ガリポリ半島に対して行った上陸作戦。この戦いで英仏軍を撃退したトルコのムスタファ=ケマルは、この時弱冠34歳、ガリポリの英雄として戦後にその名声を高め、後にトルコ共和国の初代大統領となる足場を築いた。一方のウィンストン・チャーチル(のちの英国首相)は作戦失敗の責任を取り、一時閣外に去る。
野生の梨の木
本作のきっかけとなり、脚本にも参加しているアキン・アクスによる小説「野生の梨の木の孤独」から、原題「Ahlat Ağaci(The Wild Pear Tree)」はつけられた。野生の梨の木は乾燥した土地で水があまりなくても成長する。手入れされないため、いびつで甘い実がならない。つまり、そこで生きているにも関わらず、人間には必要とされず、見向きもされない果物の木を表している。ちなみに、トルコのことわざには梨を用いたものが多く、その中に「野生の梨は熊が食べる」というものがある。「自然に育った極上品を手に入れることは難しい」という意味だそう。
挿入曲:J.S. バッハ
「パッサカリア ハ短調 BWV582」
18世紀ドイツで活躍した作曲家・音楽家のヨハン・ゼバスティアン・バッハが、1710年頃に作曲したと推定されるオルガン曲の一つ。8小節からなる主題を20 回に渡り様々な変奏を重ねながら厚みを増していく重厚な造りで、終盤には長大なフーガを配置している。このフーガとあわせて「パッサカリアとフーガ」と表記されることが多い。「トッカータとフーガ ニ短調」ほど有名ではないが、バッハの数あるオルガン曲の中でも特に緻密な設計で芸術性に富み、オルガンならではの立体的な音響構成によって、巨大建築を見るような迫力とその壮大なスケールに圧倒される大曲。
編曲:レオポルド・ストコフスキー
1882年4月18日、ロンドン出身。1977年9月13日没。20世紀における個性的な指揮者の一人。「1本の棒より、10本の指の方が遥かに優れた音色を引き出せる」と語り、指揮棒を使わずに指揮を行い、表情豊かな音楽を引き出した。楽曲をより分かり易く、効果的に響かせるために楽曲の改変をも辞さず、独創的な解釈と、「ストコフスキー・サウンド(日本では「ストコ節」とも)」と呼ばれた華麗な音色で、聴衆の圧倒的な人気を得た。この独特の演奏手法から「音の魔術師」の異名を持つ。レコードやメディアを通じてクラシックの普及に尽力した。『オーケストラの少女』(37/ヘンリー・コスタ―監督)に出演したほか、『ファンタジア』(44/ベン・シャープスティーン監督)はウォルト・ディズニーと共にアカデミー賞(R)特別賞を受賞。ストコフスキー編曲の「パッサカリア ハ短調 BWV582」は、オルガンとオーケストラの機能を知り尽くしたストコフスキーだからこそ成しえた、色彩豊かでスペクタキュラーな編曲と演奏となっている。