白血病で余命わずかな少女アリシアは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の大ファン。彼女の願いはコスチュームを着て踊ること。娘の願いをかなえるため、失業中の父ルイスは、高額なコスチュームを手に入れることを決意する。この彼の行為が、心に闇を抱える女性バルバラと、訳ありの元教師ダミアンを巻き込んでいく。出会うはずのなかった彼らの運命は予想もしない悲劇的な結末へ…。
「魔法少女ユキコ」のコスチュームをきっかけに、何気なく出会い、人生が予期せぬ方向へと大きく動き出す登場人物たち。かけ違ったボタンのように狂い出した運命の歯車は、誰にも止められない。少女たちのマジカルな瞳に魅入られた男たちは、愛のために罪を犯し、無垢な心を持った女たちは、愛のために残酷な裁きを下す。愛と欲望、善意と悪意、理性と衝動、悦びと苦しみ―悲劇のパズルのピースが埋まっていくように、観る者を闇の世界へと誘ってくれる。
監督と脚本を務めるのは、本作が劇場デビューとなるスペインの新星カルロス・ベルムト。イラストレーター、漫画家としてキャリアをスタートさせ映画の世界へ。自主製作で完成させたデビュー作“Diamond Flash”は、スペイン国内でオンライン配給され、2週間にわたって最も多く視聴された映画となるだけでなく、批評家からも絶賛され、映画雑誌“Caiman”が選ぶ2012年のスペイン映画第1位を獲得し、一気に注目を集める存在となる。
そして、本作『マジカル・ガール』は、2014年サン・セバスチャン国際映画祭のコンペティション部門に出品された。公式上映されるや、そのブラックユーモアに包まれた独創的なストーリー、全く先読みできない巧みな構成、スタイリッシュな映像、そして想像を絶するラストに、観客は唸り、批評家たちは舌を巻いた。映画祭を『マジカル・ガール』一色に染め、見事グランプリと監督賞をダブル受賞する快挙を成し遂げた。同映画祭において、グランプリと監督賞を同時に受賞したのは1997年のクロード・シャブロル監督の『最後の賭け』以来17年ぶりの出来事であった。また、巨匠ペドロ・アルモドバル監督は、「宝石のような映画『マジカル・ガール』。私はこの映画を猛烈に愛する」と大絶賛を贈った。
大ファンだと公言する漫画「ドラゴンボール」にオマージュを捧げ再解釈したコミック「Cosmic Dragon」を出版する程、日本の漫画、アニメ、映画をこよなく愛するカルロス・ベルムト監督。本作『マジカル・ガール』の中には日本テイストのアイテムが至る所に散りばめられている。物語のきっかけとなる日本の架空のアニメ「魔法少女ユキコ」のキャラクターをはじめ、アリシアが踊る曲は長山洋子のデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」。謎の車椅子の男の豪邸には黒いトカゲのマークがあり、江戸川乱歩の「黒蜥蜴」へのオマージュといえよう。更にはエンディング曲にはピンク・マルティーニがカバーした美輪明宏が作詞作曲した映画『黒蜥蜴』の主題歌「黒蜥蜴の唄」が流れるなど、監督の日本通ぶりが伺える。