◆イントロダクション◆
『ここに幸あり』『月曜日に乾杯!』の名匠オタール・イオセリアーニが贈る、
詩情ゆたかな珠玉の人間讃歌
かつてソ連の一共和国だった頃のグルジア。牧歌的な少年時代を経て映画監督になった主人公ニコは、検閲や思想統制によって思うように映画作りが出来ないことに耐えかねて、自由を求めてフランスへと向かう。ところがフランスでも、映画に商業性を求めるプロデューサーとの闘いがあったりと、映画作りは困難の連続……。はたしてニコは自分自身が本当に望んでいるものを作ることが出来るのか?
カンヌ・ベルリン・ヴェネチアが称賛し、『素敵な歌と舟はゆく』『月曜日に乾杯!』『ここに幸あり』のヒットで日本でも多くの固定ファンをもつ世界的名匠オタール・イオセリアーニ最新作となる本作は、監督の故郷グルジアを舞台に、アイデンティティーを確立し“自分自身でいること”の困難と大切さを詩情豊かに描きます。
故郷グルジアでの少年時代、検閲、そして亡命――。
“人生の達人”イオセリアーニが、初めてその実人生を重ねた「半自伝的映画」
デビュー作の『四月』(62)、ワイン工場を舞台にした『落葉』(66)など、故郷グルジアでの作品はいずれも当局で上映禁止の処分を受けたイオセリアーニ。75年の『田園詩』以降、活動の拠点をフランスに移した彼の姿は、まさしく主人公ニコそのもの。本作は、監督が初めて自身の半生を主人公に投影させつつ、ヴィクトル・ユゴー、ルネ・クレール、アンドレイ・タルコフスキーら、故郷を離れざるをえなかった数多くのアーティスト達にオマージュを捧げた「イオセリアーニの集大成」なのです。
かつて監督が「最高に深刻なことを、微笑みをもって語る」のが自分のやり方だと語ったように、盗聴や監視、検閲や抑圧など、主人公が体験する事柄はいずれもシビアでありながら、その描き方はあくまでもユーモラス。生きてゆくことのほろ苦さと甘さを、絶妙なさじ加減のユーモアで描いてみせる“人生の達人”イオセリアーニならではのノンシャランの真骨頂といえましょう。
何よりも大切なのは、自分自身でいること。
僕が僕であるために、曲げない、めげない、あきらめない。
「多数に対して服従するのではなく、自分のやりたいことをひたすらにやろうとする頑固者に名誉を与える映画を作りたかった」と監督が語るように、主人公のニコは自分が撮りたい映画を求めて、我をかたくなに通します。ニコのように体制から抑圧されるまでには至らなくても、現代を生きる私たちにとって自分を曲げずに社会を生きぬくことはなかなか難しい。だからこそ、どんなに過酷な状況でも迎合することなく、あくまで自分の足で立ち、自分を信じて真っ直ぐにひたむきに突き進むニコの姿は、清々しい感動を与えてくれるのです。