〈Studio24〉とは、ロイ・アンダーソンが所有する制作スタジオ。ストックホルム中心部のロイヤルシアターから200メートル離れた場所に所有していた天井の高さが6メートルもあるビル(もともと電報局だった)を、制作スタジオとして改築。2つの防音スタジオ、2つの編集室、1つの音声編集スタジオ、1つのサウンドミックススタジオに加え、何千もの衣裳のストックと数々のセットがある。現在、そのワークスペースは隣接するビルまで広がり、年を追うごとに大きくなっている。『さよなら、人類』の全39シーンの中に、野外撮影は一切ない。CG全盛の時代にCGをほぼ使わず、スタジオ<Studio24>に巨大なセットを組み、ミニチュアの建物やマットペイント(背景画)を多用、目を凝らしても気づかないほどのリアルな街並を再現し、そこに膨大なエキストラ、馬を登場させるなど、想像を遥かに超えた撮影スタイルで壮大なアナログ巨編を完成させた。
ハリウッド映画は、1作品に数えきれないほどのスタッフが関わっているが、ロイ・アンダーソンの場合、人手が必要な時に臨時スタッフが増えることはあっても、常勤スタッフはたったの10人!ロイ・アンダーソンのビジュアルスタイルを学び、さらに発展させるのに理想的な人数として、どんなに大掛かりな撮影でも10人で行っている。
製作が始まる前に、ロイ・アンダーソンは映画に登場すると思う順番にスケッチやドローイングを壁に貼り付けていく、 これがメインの“脚本”となり、これまで完全な脚本は存在したことがない。撮影が始まると撮り終ったシーンの スチール写真とドローイングを取り替えていき、最終的に、その壁を使って映画を“編集”する。
ロイ・アンダーソンの場合、脚本が会議室の壁ということもあり、映画がどんな内容になるのか名言しないため、資金集めは非常に困難を伴う。また撮影期間が非常に長いため、『散歩する惑星』、『愛おしき隣人』の撮影中には、資金が底をつき、コマーシャルの仕事をしなくてはならなかったが、今回、4年という長期撮影の間、他の仕事は一切せず、『さよなら、人類』だけに集中することができた。
サムとヨナタンが面白グッズを売っているという設定は、ロイ・アンダーソン自身の家族が物を売っていたことからきており、「セールスマンでいるのは普遍的なことで、私自身もセールスマンだし、皆がそうだと思う」と語っている。立寄ったバーで働く青年に言い寄る国王カール12世は、実はスウェーデンでは真のマッチョな男だとみなされている。
ロイ・アンダーソンは、エドワード・ホッパーなど多数の画家から影響を受けており、『さよなら、人類』の製作にあたり、最も重要な画家として、オットー・ディクス、ゲオルグ・ショルツ、ピーテル・ブリューゲル、イリヤ・レーピンの名を挙げている。例えば、ピーテル・ブリューゲルの「雪中の狩人」からは、裸の木々に4匹の鳥がとまり、眼下の人々の営みをもの珍しそうに眺め、鳥が思案しているようにみえることがインスピレーションとなっている。映画からは時折、鳥の鳴き声が聴こえてくる。
ロイ・アンダーソンは、『愛おしき隣人』を製作していた頃に、前作の『散歩する惑星』を含め“人間に関連する”3本の映画ができるとのではないかと気づき、人間をテーマにした“リビング・トリロジー”として『散歩する惑星』、『愛おしき隣人』に続き、最終章『さよなら、人類』を製作した。