◆イントロダクション◆

教えてくれよ、女子高生。どう生きりゃいい?

愛を知らない男と、愛を夢見た女子高生。傷ついた二つの魂の邂逅。

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偶然の出会い、それは最低最悪の出会い。
でも、そこから運命が動きはじめた……。
「家族」という逃れられないしがらみの中で生きてきた二人。父への怒りと憎しみを抱いて社会の底辺で生きる男サンフンと、傷ついた心をかくした勝気な女子高生ヨニ。純愛よりも切ない二人の魂の求めあいを、息苦しいまでにパワフルに描き、プサン国際映画祭でワールドプレミアされるや観客・批評家の熱狂を呼び、ロッテルダムはじめ世界の映画祭・映画賞で、25を超える賞に輝いた本作。韓国では、主人公の運命に涙する観客が続出し、インディーズとして異例の大ヒットを記録した。2009年11月に開催された第10回東京フィルメックスでは、史上初の最優秀作品賞(グランプリ)と観客賞をダブル受賞し、日本の映画ファンに鮮烈な印象を与えた傑作がついに公開となる。

製作・監督・脚本・編集・主演、5役をこなしたヤン・イクチュン、鮮烈なる魂の映画。

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本作は、俳優として活躍してきたヤン・イクチュン初の長編監督作品。「自分は家族との間に問題を抱えてきた。このもどかしさを抱いたままでは、この先生きていけないと思った。すべてを吐き出したかった」。そんな切実な思いから脚本を書き始め、自分で資金を集め、製作にこぎつけた。自身の感情のありったけを注ぎ込んだ主人公サンフンを演じるのは、もちろん自分だ。途中、製作資金に困って家を売り払いさえした。そこまでの思いでつくりあげた『息もできない』は、まさにヤン・イクチュンの魂そのもの。物語はフィクションでも、映画の中の感情に1%の嘘もない、という。だからこそ、観客の胸を激しく揺さぶる。

「家族」の中に、韓国の歴史の哀しみまでを描写するデビュー作と思えない完成度。

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すべてを吐き出したかっただけ。ただ自分が見たもの、感じてきたものを書いた。ヤン・イクチュンは、そう語るが、映画の中には、韓国の家族が経験しなければならなかった歴史の哀しみまでもが深く流れている。さらに目をみはるのが、これが長編デビューとは信じがたい映画の完成度である。漢江での名シーン、回想のフラッシュバック、ふと挟み込まれる俯瞰ショット…脚本、キャメラ、編集のすべてにおいて、自身の感情を、大きな運命の歯車がきしむ普遍的な悲劇として描ききる天賦の才能は圧倒的だ。初作品にして「正真正銘の最高傑作!」(ニューヨーク・タイムアウト誌)との称賛は決して大げさではない。

スタッフ・キャストの運命的ともいえるアンサンブル。

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本作で数々の女優賞に輝いたヨニ役のキム・コッピ。ヨニの弟でサンフンの運命を決定づけるヨンジェを演じたイ・ファン。彼ら二人は、ヤン・イクチュンとは初顔合わせで当初第一候補ではなかった。しかし、スクリーンでの見事な存在感を見れば、これは「運命的」ともいえるキャスティングだったと誰もが感じるだろう。その他は、いずれもヤン・イクチュンが信頼するキャスト・スタッフ。サンフンの父親を演じるパク・チョンスン、先輩役のチョン・マンシクはいずれも舞台をベースに活躍する名優、美術のホン・ジは『マジシャンズ』で知られる。中には、「技術は上達する。だから心が大事だ」と心を買われたスタッフもいた。『息もできない』は、技術よりも魂でつくらなければならなかった映画なのだ。

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