最高に幸福なはずの結婚式の日。
花嫁一家を待ち受けていたのは、行く手を阻む境界だった。
どんなに翻弄されようとも、決意と希望を胸に歩いてゆく女たちの姿が、私たちの心の琴線をふるわす――。
結婚式の今日は、花嫁モナにとって最高に幸福な日となるはずだ。
けれど、彼女も姉のアマルも、悲しげな顔をしている。なぜなら、一度“境界線”(現在の軍事境界線の意)を越えて花婿のいるシリア側へ行ってしまうと、二度と家族のもとへ帰れないのだから。
彼女たちをはじめ、家族もみな、国、宗教、伝統、しきたり…あちこちに引かれたあらゆる境界に翻弄され、もがきながら生きていた。モナは決意を胸に、家族とともに“境界線”へと向かうが、そこで待ち受けていたのは、通行手続きを巡る思わぬトラブルだった…。
クライマックスでの、高まる家族愛、未来へ踏み出そうとする姉妹の姿、そしてモナの驚くべき行動に、私たちの目と心が奪われる――。
舞台は、ゴラン高原のマジュダルシャムス村。イスラムの少数派とされるドゥルーズ派の一家族の結婚式の一日の物語。ここは、もともとはシリア領であったが、1967年の第三次中東戦争でイスラエルに占領されることとなった。
この地域の多くの住人たちは“無国籍者”となり、新たに引かれた“境界線”の向こう側にいる肉親との行き来さえも不可能にされている。分断された彼らは、「叫びの丘」と呼ばれる場所に拡声器を握って立ち、向こう側にいる肉親と、近況や無事を確認し合うのである。