2015年カンヌ国際映画祭監督週間に出品されるや、これが長編デビュー作と信じがたいほど卓越した構成力と美しい映像、5人姉妹を演じる少女たちの溢れんばかりの存在感が各国マスコミに絶賛され話題を集めた、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督作『裸足の季節』。同映画祭でヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を受賞後、世界中の映画祭を席巻し、観客賞と主演女優賞を中心にあまたの賞を次々に獲得、ついにはトルコ出身の女性監督によるトルコ語作品ながら、同年のカンヌ映画祭パルムドール受賞作『ディーパンの闘い』(ジャック・オディアール監督)などの並みいる強豪を押しのけてアカデミー賞®フランス映画代表に選ばれ、ついには同外国語映画賞にノミネートされた。自国語以外の作品がフランス代表となったのは『黒いオルフェ』(59)以来、実に56年ぶり2度目の快挙である。
トルコ・アンカラで生まれ、フランス・パリで映画を学んだデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンの長編デビューとなる本作は、彼女が少女時代に実際に体験した出来事が投影されており、脚本も手がけている(アリス・ウィノクールと共同)。撮影中は自身の妊娠と重なっていたが無事クランクアップ。完成とともに快進撃を展開し、米バラエティ誌が選ぶ「注目すべき映画監督10人」に選出された、気鋭の女性監督である。
イスタンブールから1000km離れたトルコの小さな村に住む、美しい5人姉妹の末っ子ラーレは13歳。10年前に両親を事故で亡くし、いまは祖母の家で叔父とともに暮らしている。学校生活を謳歌していた姉妹たちは、ある日、古い慣習と封建的な思想のもと一切の外出を禁じられてしまう。電話を隠され扉には鍵がかけられ「カゴの鳥」となった彼女たちは、自由を取り戻すべく奮闘するが、一人また一人と祖母たちが決めた相手と結婚させられていく。そんななか、ラーレは秘かにある計画をたてる……。
思春期の少女たち特有の輝きと憂い、そして内に秘めたマグマのようなエネルギーが、色鮮やかなビジュアルと光あふれる映像によって丁寧に、繊細に映しだされる。「見れば誰もが彼女たちに夢中になる!」(ル・パリジャン)と評されるように、自由を奪われながらも再びそれを手に入れようと奮闘する姉妹たちの姿に、誰もがエールをおくらずにはいられない。
姉妹役の5人はいずれもオーディションやスカウトによって監督が見出した新人で、三女エジェを演じたエリット・イシジャン以外はすべてこれが演技初体験。映画の原題である「ムスタング(MUSTANG)=野生の馬」そのものの生命力にあふれ、みずみずしく溌剌とした彼女たちの魅力がこの映画を牽引しており、その功績に対して、第21回リュミエール賞新人女優賞、第21回サラエヴォ映画祭主演女優賞、第5回サハリン国際映画祭審査員特別賞(主演女優)、第46回インド国際映画祭主演女優賞が5人全員に贈られた。
音楽は、オーストラリア出身のアーティスト、ウォーレン・エリス。本作『裸足の季節』は、ニック・ケイヴ率いるニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズでの活動や、ニック・ケイヴと共同で担当した『欲望のバージニア』『母の身終い』などの映画音楽で知られる彼が、単独でサウンドトラックを手がけた初の映画である。