フランス革命の時代、どこかの戦場、現代のパリ──時代や場所が違っても、人と人は繋がっている。変わることなく繰り返される日々の営み。争いや略奪、犯罪は決してなくなることはない。それでも、溢れるほどの愛や友情、希望がある。寒い冬の後には、必ず花咲く春がやって来る。明けない夜はない。そう、明日は今日よりも良いことが待っている。混沌とする社会の不条理を、反骨精神たっぷりのセンスの良いユーモアで、ノンシャランと笑い飛ばす。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンなどで数々の賞を受賞し、世界各国でゆるぎない評価を得ているオタール・イオセリアーニ監督。日本でも、『月曜日に乾杯!』『ここに幸あり』のヒットで、熱狂的なファンを増やし続けています。そんな彼が、81歳にして軽やかに謳いあげた夢が詰まった人間賛歌。イオセリアーニ監督の集大成とも言える『皆さま、ごきげんよう』は、極上のワインのような豊饒な輝きを放つ傑作となりました。
たまらなく魅力的で愛すべきキャラクターたちが繰り広げるいくつものエピソードは、まるで絵本をめくるような楽しさに満ち溢れています。一見関係なく思える様々なエピソードは、しりとりのようにゆっくりと繋がって、ひとつの素敵な物語を作り上げます。そして、観る者に人生の本当の豊かさを気づかせてくれます。
「映画の上でも、実生活でも尊敬する人物だ。年を取るほど大好きになっていく」と、イオセリアーニ監督が絶賛を贈るのは、『アメリ』などジャン゠ピエール・ジュネ監督の作品でお馴染のリュファス。主人公の管理人だけでなく、ギロチンで首をはねられる中世の男爵、体中に刺青を入れた従軍司祭…など、幾つものキャラクターを変幻自在に演じています。骸骨集めが大好きな人類学者を飄々と演じるのは、『群盗、第七章』、『素敵な歌と舟はゆく』、『月曜日に乾杯!』などイオセリアーニ作品の常連で、監督と同じグルジア(現ジョージア)出身のアミラン・アミラナシュヴィリ。イオセリアーニ監督が敬愛するジャック・タチの『ぼくの伯父さん』のイラストポスターを手掛けたピエール・エテックスがホームレスのひとりに、武器を買うゴロツキには、『愛より強い旅』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞した映画監督のトニー・ガトリフが扮しています。黙々と家を建てる男を演じるのは、ヨーロッパのみならず、近年ハリウッドでも活躍するマチュー・アマルリック。彼はイオセリアーニ監督の「月の寵児たち」で役者デビューを果たしています。
「映画を作ることは建築と同じで橋を造るようなもの」と語るイオセリアーニ監督は、周到な計算に基づいて映画を作っていきます。画面の構図作りやカット割りを考えるにあたり、全カット分、200枚ほどのストーリーボードを作成。ストーリーボード上には、絵コンテとは別に、カメラの位置や俳優の動きなどが細かに書かれています。撮影する地点がどの位置になるのか、どのような撮影方法か、それぞれの視点から何が見えているかなど一目瞭然です。絵画のような美しい映像、その映像に寄り添う音、役者たちの瑞々しい芝居、フリーハンドのように思える作品の心地よい軽やかさも、緻密な計算によって生まれてくるのです。