こんなに世の中が不条理で人生が辛く思える時、
同じ世界が美しさも希望も含んでいることを
チャーミングに教えてくれるイオセリアーニ監督にただ感謝したい。
所有と自由をめぐるコントで、映画がダンスする!
人間社会は矛盾に満ちてろくでもないが、生きるくらいには値するよ、
生きていれば友と酒が飲めるし音楽も聴けるじゃないか。
解放の魔法を、おじいちゃんと野良犬が教えてくれる。
いいことばかり起こらなくても、ぽっとハートがあったかくなる。
幸せは、じつは日常の片すみに転がっているということを
教えてくれたのは、ちょっとさえない登場人物たちでした。
滔々と流れる独特のテンポの中に
長屋物の落語に出てくるようなクスッと笑ってしまう笑い所を
散りばめた微笑ましい一作。
詩的なファンタジー『皆さま、ごきげんよう』で、映画作家オタール・イオセリアーニは、自分たちを排除しようとする勢力にもかかわらず、友情と愛と夢でもって、混沌とする社会の中にとどまろうとする人々を描く。
ファンタジーであるイオセリアーニの『皆さま、ごきげんよう』は、それでも時代の刻印を受けている。軽さを装う表面の下に、社会の確かな観察が秘められているのだ。
ファンタジーとはこの場合、現実から目をそらすことではなく、静かに現実を見つめる目なのである。
これは生まれ変わりの、輪廻転生の物語だろうか。
いや、そうではない。イオセリアーニは、ノンシャランでバーレスク風な調子でアイロニーたっぷりに、ありとあらゆる苦しみ、人間科学、オカルトを驚くほど甘美なスペクタクルにしてしまう。彼はヨーロッパでも稀に見る冷静沈着、真面目な顔で冗談を言う人物なのだ。この映画は楽しく、人の心を解き放ち、民主主義的であると同時に(広角の画面は民主主義だ)、貴族的(ダンディズム)でもある。
身振り(たいていの場合、愛の身振り)は言葉(たいていの場合、ジャック・タチのように聞き取れない)よりも重要だ。要するにイオセリアーニの映画は相変わらずなのだが、愉しさと同じ分だけメランコリーが感じられる。
彼のノンシャランは、彼の真面目さの裏返しなのだ。
オタール・イオセリアーニは、新作『皆さま、ごきげんよう』と共に、社会の周辺に生きる不屈の闘士たち(ここではリュファス、ピエール・エテックス、マチュー・アマルリックが演じる)が出没する界隈に帰ってきた。革命期のパリから、戦争の惨禍生々しいコーカサスを経て、現代のパリへ。80歳になんなんとする作者は、弱々しいヒーローたちが敵を打ち破ることができるなどと幻想を抱いてはいない。しかし少なくとも、イオセリアーニの分身たる彼らは、嘲りと不合理、そして優美さという武器で、とことんまで戦うのだ。
※敬称略・順不同
いつしか観ている側のぼくらも映画の中にいるのだなと思った。
そして生きてることに乾杯したくなったんだ。
荒井良二(絵本作家)
生きていることがナンセンスに思えて、
なぜか幸福な気分になりました。
きたろう(俳優)
生きるとはしあわせを求める営みである。
さて、僕もこの映画の登場人物の一人である。
どの場面に現れるのかお探しください。
松浦弥太郎(エッセイスト)
いっぷう変わった人々の織りなすプチ出来事が
やがて風合い豊かな織物に仕上がる。
まさに仏版『どですかでん』(黒澤映画最高異色作)ではないか!
やくみつる(漫画家)
この国籍、年齢、性別を超えた「不良性」こそ、
ともすれば二十一世紀が忘れがちな歴史的美徳である。
蓮實重彦(映画評論家)
可笑しさ溢れる『皆さま、ごきげんよう』は、現代社会の寓話だ。
まさに、ジャック・タチやチャップリンのよう。
アーレリアン・フェレンツィ/テレラマ
オタール・イオセリアーニは現実に幻想を抱いてはいないが、自由を謳う歌い手となる。
『皆さま、ごきげんよう』は、友情、友愛、愛情が、魔法の力を持つのである。
ナタリー・シモン/ル・フィガロ
ローラーでパンケーキみたいにペシャンコにされたホームレスを、通行人が引き出して扉の隙間から中に差し入れる。
これは、映画作家オタール・イオセリアーニの『皆さま、ごきげんよう』のほんの一例。
バランス感覚に長けた監督の、悲劇的にして滑稽なオデッセイ。
エリック・コーン/インディワイヤー
イオセリアーニが年を取るにつれ、彼の映画は若返り、軽みを増し、陽気なシュールレアリスムに近づく。
いつだって彼の映画の中では、物語、人物、時代が混じり合うのだが、
彼の目指すところはただひとつ、世界のとてつもない残酷さを耐えられるものにすること、だ。例え季節が冬であっても、歌を歌おうじゃないか。それがこの軽快で可笑しな映画『皆さま、ごきげんよう』の教訓だ。
ピエール・ミュラ/テレラマ
洗練されたヨーロッパ的ファルス。苦もなく達成されたかのように見える巧みさで、イオセリアーニは現在とは違うオルタナティヴなリアリティを呼び出すのだが、そこは、凡庸な現代世界からの隠れ家となるのだ。
ニール・ヤング/ハリウッド・レポーター