監督

監督・脚本:黒沢清

黒沢清

1955年7月19日生まれ、兵庫県出身。大学時代から8ミリ映画を撮り始め、『スウィートホーム』(88)で初めて一般商業映画を手掛ける。その後『CURE キュア』(97)で世界的な注目を集め、海外映画祭からの招待が相次ぐ。『ニンゲン合格』(98)、『大いなる幻影 Barren Illusion』(99)、『カリスマ』(99)と話題作が続き、『回路』(00)では第54回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。
以降も、第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『アカルイミライ』(02)、『ドッペルゲンガー』(02)、『LOFT ロフト』(05)、第64回ヴェネチア国際映画祭に正式招待された『叫』(06)と国内外から高い評価を受ける。また、日本・オランダ・香港の合作映画『トウキョウソナタ』(08)では、第61回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞と第3回アジア・フィルム・アワード作品賞を受賞。連続ドラマ「贖罪」(11/WOWOW)で、第69回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門にテレビドラマとして異例の出品を果たしたほか、第37回トロント国際映画祭や第17回釜山国際映画祭など多くの国際映画祭でも上映された。その他、第8回ローマ映画祭最優秀監督賞を受賞した『Seventh Code セブンス・コード』(13)、第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞と第33回川喜多賞を受賞した『岸辺の旅』(14)、第66回ベルリン国際映画祭に正式出品された『クリーピー 偽りの隣人』(16)などがある。

Filmographie 代表作品 ※年号は初号試写に準じる

1983
神田川淫乱戦争
1985
ドレミファ娘の血は騒ぐ
1988
危ない話 夢幻物語「奴らは今夜もやってきた」
スウィートホーム
1991
地獄の警備員
1995
勝手にしやがれ!! 強奪計画
勝手にしやがれ!! 脱出計画
勝手にしやがれ!! 黄金計画
勝手にしやがれ!! 逆転計画
1996
DOORⅢ(1996)
勝手にしやがれ!! 成金計画
勝手にしやがれ!! 英雄計画
復讐 運命の訪問者
復讐 消えない傷痕
1997
CURE キュア
蛇の道
蜘蛛の瞳
1998
ニンゲン合格
1999
カリスマ
大いなる幻影 Barren Illusion
降霊 KOUREI
2000
回路
2002
アカルイミライ
ドッペルゲンガー
2005
LOFT ロフト
楳図かずお 恐怖劇場 蟲たちの家
2006
2008
トウキョウソナタ
2011
贖罪(テレビシリーズ)
2013
リアル~完全なる首長竜の日~
Seventh Code セブンス・コード
2014
岸辺の旅
2016
クリーピー 偽りの隣人
ダゲレオタイプの女

黒澤清監督インタビュー

―オリジナル脚本で作られた『ダゲレオタイプの女』ですが、なぜフランスを舞台に外国人キャストで撮影しようと思ったのでしょうか。

長らく自国で映画を撮り続けてきて、一度でいいからこの日本という現実から隔たった物語を扱ってみたいと思っていました。しかし、それは具体的にどこの国なのかということまでは考えていませんでした。もしどんな現実とも無関係な映画の法則だけで成り立っている世界があるなら、そこで映画を撮ることは昔から私の夢でしたが、もちろんそれが不可能なことは知っています。そんな子供じみた欲望を持つ外国人に、大胆にもチャンスを与えてくれた国がフランスだったのです。

―フランスを舞台に外国人キャストを起用して撮影した、黒沢清監督としては初めての海外進出作品です。脚本を書くにあたって意識されたことはありますか。

特にありません。私はまず、それがどの国のどの時代でも通用するような物語を目指して脚本を書き、その後、それを現代フランスのしかもパリという街で成立する物語として細部をリライトしてもらうよう、フランス人共同執筆者に依頼しました。

―世界最古の写真撮影方法「ダゲレオタイプ」によって引き起こされる展開が印象的です。これを設定として取り入れようと思ったのは何故ですか。

理由は二つあります。ひとつは、以前日本の写真美術館で偶然見たダゲレオタイプの女性の肖像が強烈に印象に残ったこと。彼女は苦痛とも恍惚ともつかない表情で虚空を見つめていたのですが、それは彼女の身体が数分間の露光時間に耐えるよう完全に固定されていたからだと知って、この時代の写真技術に大いに興味を持ちました。ふたつめの理由は、現代はコンピューターとデジタルの氾濫で映像はあまりにも安易に大量に流通しており、映画撮影の現場でいまだに古風に行われている撮影という儀式を、もういちど自分なりに再考してみたかった、というものです。

―実力派俳優タハール・ラヒム、オリヴィエ・グルメ、マチュー・アマルリック、そして新星コンスタンス・ルソーと魅力的な役者が出演しています。キャスティングは、どのように決まったのでしょうか。

タハール・ラヒムは『預言者』を見て以来ずっと気になっていました。それが数年前、ドーヴィル・アジア映画祭で偶然彼と出会い、たちまち彼の人間性にも魅かれて是非彼でいきたいと願うようになりました。オリヴィエ・グルメについては、私はずっと前からダルデンヌ兄弟のファンであり、当然グルメ氏のファンでもありました。今回のステファンは、この映画の非現実性を一手に背負っているような役であり、彼ぐらい強烈なリアリティを発揮できる俳優に是非とも演じてもらいたかったのです。コンスタンス・ルソーは『すべてが許される』と『女っ気なし』を見て、是非一度お会いしたいとこちらから申し出ました。そして実際に彼女と会って、ナイーブで神秘的なその存在感に圧倒され、マリーは彼女しかいないと確信しました。

―キャストのみならず、スタッフもほぼ全員が外国人だったそうですが、日本と海外の現場で違いは感じましたか。また、苦労した部分はありますか。

撮影現場で日本との違いはほとんど感じませんでした。もちろん優れた通訳がいたからですが、スタッフやキャストたちが監督の意図を真剣にくみ取り、それを実現させることに最大限の努力をいとわないという点は、世界どこでも共通なようです。本当にありがたいことでした。

―フランスの中心部や郊外の風景、そして古く重厚感のある屋敷など印象的なロケーション多くありましたが、撮影地はどのように選びましたか。

当初から、物語の舞台はパリ市内と郊外との境目あたりだろうと決めていました。これは日本でも同じことなのですが、現代社会の見慣れた地域であるにもかかわらず、そこで現実と非現実が微妙に混じり合う物語が成立する場所は、都市と田舎の境界線あたりだろうと直感的に思っています。そして、それにふさわしい場所をパリ市の境界線をぐるぐると回りながら徹底的に探し、ようやくうってつけのロケ場所が見つかりました。

―この作品をご覧になる方へ、メッセージをお願いします。

これはもちろんフランス映画ですが、あまり先入観にとらわれず、無国籍なただの映画として見ていただければ幸いです。そして、日本人監督が撮ったということも忘れていただいた方がありがたい。そんな作家性とも国籍とも関係もない、純粋な娯楽映画を目指して頑張りました。

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