膨大な台詞と豊かな映像が描き出す「父と息子の軋轢と邂逅」
シナンの夢は作家になること。大学を卒業し、トロイ遺跡近くの故郷へ戻り、処女小説を出版しようと奔走するが、誰にも相手にされない。シナンの父イドリスは引退間際の教師。競馬好きな父とシナンは相容れない。気が進まぬままに教員試験を受けるシナン。父と同じ教師になって、この小さな町で平凡に生きるなんて……。父子の気持ちは交わらぬように見えた。しかし、ふたりを繋いだのは意外にも誰も読まなかったシナンの書いた小説だった――。
作家を夢見ながらも、現実を受け入れようともがくシナンと呼応するように、夢と現実を行き来しつつ物語は進む。怒涛の如く発される膨大なセリフによって語られるのは、父と息子の軋轢と邂逅。近しいからこそ、疎み、軽んじ、分かり合えることはないと断じてしまう家族。しかし、実は根底で繋がり、理解し合える。
不可解でいて絶対に失うことのない家族の絆を、温かさだけでなく、冷淡さをも持って描き出す。