1978年8月29日生まれ。鳥取県出身。京都造形芸術大学在学中より自主制作映画やMVを監督し、卒業後は林海象監督や押井守監督のもとで助監督を務める。『流れる』(01)がPFFアワード2003技術賞(IMAGICA賞)を受賞。『まばたき』(06)がPFFアワード2006審査員特別賞を受賞。『花』(06)が第13回函館港イルミナシオン映画祭、第10回シナリオ大賞でグランプリを獲得するなど数々の受賞歴を持つ。押井守総監修の実写オムニバス映画『真・女立喰師列伝』(07)の一編『草間のささやき 氷苺の玖実』を監督し商業映画デビュー。以降、撮影監督を務めると共に、監督としてもテレビドラマ「増山超能力師事務所」(17/ YTV・NTV)、「ワカコ酒 Season1~3」(15~17/BSジャパン・TX)、「男の操」(17/NHK BSプレミアム)、「リピート〜運命を変える10か月〜」(18/ YTV・NTV)や、乃木坂46のMV・ショートムービーなど数多くの作品を手掛ける。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で満を持して長編商業映画デビューを果たす。
十代のあの頃にだけ存在した感情。あの頃にだけ通用した感覚。
危うくて紙一重な当時の彼らの気持ち。
その一瞬一瞬を映し出した映画です。
南さん、蒔田さん、萩原くんの三人が体当たりで演じてくれたおかげで、
今まで観たことのない荒削りで繊細で力強い作品になりました。
いま十代の人たちにも、そしてかつて十代だった人たちにも
ぜひ観ていただきたいです。
湯浅弘章
―― 原作は押見修造さんの同名コミックですね。また、監督にとっては長編商業映画デビュー作でもあります。
映画化にあたっての想いを聞かせて下さい。
押見修造さんの作品は元々好きで、よく読んでいました。三年ほど前にこの作品の映画化の話が持ち上がり、ぜひ監督をやらせて頂きたいと。特に「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は、キラキラした青春ものだったり、作家性が強く感じられるものだったり…と、撮り方によっては種類の異なった良い映画になり得るんだろうなと思っていたので、映画化にあたっては具体的にどういう方向にしていこうかと考えながら形作っていきました。商業映画デビューは二十代でしていますが、それからドラマやCM、MVと経験を重ね、作り方を形成してからだったので、自分のなかでは気負いすぎず、良いタイミングでこの作品を撮ることができたと思っています。
―― 志乃役に南沙良さん、加代役に蒔田彩珠さんと、次世代を担う実力派なお2人が主演ですね。
キャスティングはどのように決めたのでしょうか。
志乃役は、なかなか決まらず何度もオーディションを行いました。そんな時に南さんが参加してくれて。ヨーイをかけたら「志乃だ」と、満場一致で決まりました。素朴で味があって、原作者の押見さんにも同席してもらっていましたが即決でしたね。
加代役の蒔田さんは、出演作を観て既に知っていたので、あの年齢でしっかりお芝居できるし間違いないと。志乃役のオーディションでは、蒔田さんにも立ち会ってもらいましたが、初対面なのに二人の掛け合いやバランスがとても良くて。同年代で配役したいと思っていたので、当時十四歳、同い年の二人はまさにぴったりでしたね。
―― 志乃というキャラクターについて、どのように捉えていますか?
志乃は言葉が上手く話せない吃音です。しかし、思春期には誰しもが何かしらで悩む。そこはすごく普遍的だなと。この作品は、吃音でない人が観ても感情移入できると思うんです。志乃、加代、菊地、それぞれが何かしらコンプレックスを抱えている。年代も境遇も違う、どんな人が観ても分かりやすい作品にしたいと思っていたし、原作もそこは共通しているんじゃないでしょうか。
一方で、吃音の描写については安易に描きたくなかったし、当事者の方たちも納得して頂けるものにしなくてはならないと思いました。南さんには、現場に入る前に吃音がある方に会ってもらいました。誰か一人をモデルにするのではなく、色々な方と接してもらうなかで志乃の吃音を作っていってもらいました。最終的な演技は、十分納得してもらえるものになっていると思います。
―― 脚本を足立紳さんが担当されています。原作と映画の違いを出すにあたってどのような話をしましたか。
足立さんとは、同郷の鳥取出身ということで、たまたまプライベートでお会いする機会がありました。当時、この作品の脚本がまだ決まっていなかったので、ぜひお願いしたいとお声掛けしました。映画化にあたっては、原作の残しておくべきところと、映画ならではの部分について、ディスカッションをしつつ一緒に進めていきました。恐らく、一番足立さんの色が濃く出ているのは、菊地のキャラクターじゃないかと思います。
―― 観客の皆さまへ一言。
十代の頃にしかない悩みや、苦悩。それが年を重ねていくと、なんだったのかと思うくらいに忘れてしまう。この映画を観て、その当時感じたものを思い出すというのは、すごく良い映画体験になるんじゃないかと思います。主人公たちと同じ年代の人が観ても、年を重ねた人たちが観てもそれぞれ感じるところはあるし、そういう映画になるといいなと思います。
Staff Profile
1973年6月10日生まれ。鳥取県出身。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始める。2013年「佐知とマユ」で、第38回創作テレビドラマ大賞、第4回市川森一脚本賞を受賞。『百円の恋』(14/武正晴監督)で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、第17回菊島隆三賞を受賞。『百円の恋』と『お盆の弟』(15/大崎章監督)で第37回ヨコハマ映画祭脚本賞を受賞するなど、高い評価を受ける。そのほか『デメキン』(17/山口義高監督)、『嘘八百』(18/武正晴監督)など。また、脚本業にとどまらず『14の夜』(16)で映画監督としてデビュー。小説「乳房に蚊」(幻冬舎)、「弱虫日記」(講談社)など発表するなど、作家としても精力的に活動している。キネマ旬報に小説「春よ来い、マジで来い」を連載中。今後の待機作に映画『こどもしょくどう』(18/日向寺太郎監督)『きばいやんせ!私』(18/武正晴監督)がある。
1983年6月7日生まれ。「自宅録音」(05)でデビュー。ライブ活動休止とともにインターネット上に毎週新曲をアップロードする企画をスタート。以降も「TERRAFORMING」(13)「Enterkey.co.jp」(14)など作品を発表。11年には英国のバンド、コーナーショップとフジロックフェスティバルで共演を果たす。近年はテレビCMへの楽曲提供や映画音楽など、多岐にわたり活躍。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』では、加代が歌う「魔法」の作曲も手掛けた。