13歳の少年・アメッド。
ベルギーに暮らし、つい最近までどこにでもいるゲーム好きな少年だったが、今はイスラム教の聖典であるコーランに夢中。
小さな食品店の二階のモスク(イスラム礼拝所)で導師が行う礼拝に兄と熱心に通っている。
放課後クラスのイネス先生との“さよならの握手”を「大人のムスリムは女性に触らない」と拒否した夜、それを聞きつけた母親に叱られる。
「イネス先生は識字障害克服の恩人よ。毎晩読み書きと計算を教えに来てくれた」
そんな母の言葉にまったく耳を貸さないアメッド。
父が家を出て以来、母は毎晩酒を嗜むようになっていた。
ある日、イネス先生は歌を通じて、日常会話としてのアラビア語を学ぶ“歌の授業”を提案する。
「コーランが大切。日常会話のアラビア語は後ででもいい」
「ベルギーで暮らしてるけど、アラビア語ができるほうが仕事の選択肢も増える」
保護者の間でも意見は分かれる。
「聖なる言葉を歌で学ぶなど冒涜的だ。あの教師は背教者だ。背教者を見つけたらどうする?」
導師に問われ、アメッドは答える。
「見つけ次第、排除するべき」
うなずく導師。
「その教師は“聖戦の標的”だな」。
「アラーよ。僕の行動を受け入れてください」
アメッドは靴下にナイフを忍ばせて歩く練習をし始める。
イネス先生のアパートを訪ねるアメッド。
疑うことなく、オートロックを外す先生。
建物に入り、先生の部屋の前にアメッドは佇む。
出てきた先生に襲い掛かるが、部屋に逃げ込まれ、刺し損ねる。
アメッドは導師の元に逃げ込むが、驚いた導師は、
「モスクのため、家族のため、自首しろ」とアメッドを説き伏せる。
「自分はなにも言っていない。そうだな?」
少年院に入ったアメッド。
アラビア語を理解する先生もいる。
更生プログラムのひとつである農場作業を手伝うようになり、農場主の娘・ルイーズが牛の世話の仕方などをきさくに教えてくれる。
しかし、アメッドは動物に触れることも、親切にされることも心地悪くて仕方ない。
母親との面会日。
「元のお前に戻ってよ」
泣きながらもアメッドを抱きしめる母。
信じれば信じるほど、純粋であろうとすればするほど、頑なになっていくアメッドの心。
少年の気持ちが変わる日は来るのだろうか――。