神話に彩られた映画監督フィリップ・ガレル
J=L.ゴダールからレオス・カラックスまで、世界の映画作家たちが心酔するフィリップ・ガレル監督。61年、わずか13歳で撮った処女作(その後自らの手で廃棄)がフランス映画界で話題となり、「恐るべき子供(アンファン・テリブル)」と騒がれるも、その後アメリカに渡り、60年代後半、アンディ・ウォーホールのファクトリーに参加。前衛的かつ実験的な作品を撮り続ける。かのジーン・セパーグに愛され、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの歌姫ニコとの愛の蜜月を送った数々の神話的色彩を帯びた映画作家。『ギターはもう聞こえない』『愛の誕生』、その作品は一貫して、自伝的要素を色濃く反映させながら、ストイックなまでに男と女、その出逢いから生まれる愛の誕生と喪失という普遍的なテーマを描き続ける。
エレーヌを巡る2人の男たち
妻を亡くした哀しみから苦悩に溺れる建築家セルジュを演じるのは、『クリスマスに雪は降るの?』(96)のダニエル・デュバル。寡黙なクールさとは裏腹に、やり場のない想いを胸に一人真夜中の街を彷徨し、朝もやにつつまれた明け方の河岸を歩くセルジュのみせる弱さに、孤独な男の哀愁を感じさせる。そしてセルジュが自ら命を絶つという選択に至るラストシーンには、ガレルの、死に急いだ愛する者たち(ジーン・セパーグ、ニコ、親友である映画監督ジャン・ユスターシュ…)への鎮魂歌<レクイエム>としての想いが鳴り響く。また、年上の恋人エレーヌを愛しながらも、若さゆえにその愛から逃げるポールに『ポネット』のグザヴィエ・ボヴォワ。本作の共同脚本も手がけ、「きみは死ぬことを忘れるな」(95)、ブノワ・マジメル主演「マチューの受難」(00)など自らの監督作品が高く評価されている多才な映画人である。
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