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坪田義史監督│インタビュー

――原作はアメリカの作家アンソニー・ドーアの短編集「シェル・コレクター/貝を集める人」ですが、 どういった経緯でこの小説を映画化しようと思ったのでしょうか。

盲目の貝類学者が、一人孤島に住み、手探りで貝を拾い集め、自然に対して畏怖の念を抱くというアンソニー・ドーアの短編小説「シェル・コレクター」の感応に満ちたストーリーに読者として以前から惹かれてました。
映画化しようと思ったきっかけは、日本で震災を経験し、その後に渡米した時期が重なったことが大きいです。米国滞在期間中、日本人の自分が世界に向けてどう作品を提示するのかを考えていた際に、海外の文芸作品を日本に置き換えて脚色した作品を作るアプローチはどうか?と考えました。NYで出会ったインディペンデントの映画プロデューサー、エリック・ニアリさん、黒岩久美さんに「シェル・コレクター」の小説と映画化する場合のシノプシスを読んで頂き、アメリカにおける原作権の取得方法を相談する中で、共に映画化の可能性を探り、国際共同企画を練っていきました。

――リリー・フランキーさん、寺島しのぶさんはじめ実力派俳優の方々が出演しています。キャスティングはどのように決まったのですか。

小説家にしてイラストレーター、そして俳優というボーダーレスな表現者のリリー・フランキーさんに以前から注目していました。盲目の貝類学者という難役をリリーさんならば寓話と現実の狭間で演じてくださると思い、脚本と自分の前作『美代子阿佐ヶ谷気分』のDVDを渡して出演をオファーし、返事を待ちました。
寺島さん、池松さん、橋本さんも同様に普段から個性的に活躍する姿を観ていて、南国の自然を背景にそれぞれの役を演じて頂きたくて出演依頼をしました。ジム・スタークさんは、NYのプロデューサーの紹介で決まり、普久原さん、新垣さんとは、沖縄で出会えました。

――撮影を芦澤明子さんが担当されていますね。

芦澤明子さんが切り取るフレームが好きで、フィルム撮影をお願いしました。芦澤さんのアイデアで、デイシーンは16mmフィルムで色濃く撮影し、夜間の撮影は闇に強いHDカメラ、水中は高解像度の4Kのカメラを使用しました。16mmフィルム独特の粒状性とデジタルの鮮明さがこの映画の中で混在し、昨日、今日、明日の光景が混ざり合ったレトロフューチャーな世界感を目指しました。芦澤さんをはじめ、声をかけて集まって頂いたプロフェッショナルな各スタッフたちと共に、とある時代の自然の中に取り残されてしまったような虚無感漂う画作りができました。

――舞台を沖縄に置き換え、時事的なニュアンスも取り入れるなど、原作とは設定を変えている部分もありますが、シナリオを書くにあたり苦心されましたか。

原作の舞台はケニア沖の孤島です。その島で学者を取り巻くのは、圧倒的な自然と、そこに根付く、西欧とは全く異なる文化や死生観を持って生きる人々です。小さな島で起こる出来事が、あたかも世界の縮図のように人々の多様な有り様を浮き彫りにしていく様が、この物語の魅力でもありました。
脚本家の澤井香織さんとシナリオを書くにあたっては、原作にある寓話性と現実世界とのバランスみたいなものについて意見交換して決めていきました。先の見えない暗い闇の中に、かすかな光を求めて、そこに向かって進んでいくイメージを原作にある盲目の学者の境遇に照らし合わせて日本に置き換えて脚色しました。

――本作は、オール沖縄ロケでしたが、撮影場所はすぐに決まりましたか。

日本で映画化出来ないかと考えた時、まず浮かんだ場所が沖縄でした。豊かな自然と、多様な異文化の往来の中で独自の文化を育んできた沖縄であれば、実現できると思ったからです。奇跡が起こるかも知れないと思わせるような聖なる場所を探して、沖縄の離島、渡嘉敷島に決めました。この映画は、人が自然と対峙する野外でのシーンが多数あって、リリーさん演じる学者が海底に佇むシーンの撮影は、渡嘉敷島からボートで沖に出て、実際にリリーさんに水中に潜って頂いて撮影をしたので、現場でのリリーさんの身体を張った生身のアクションに気迫を感じて、船酔いの中で大変緊張したこととあわせて、とても印象に残っています。また、学者の住む家を渡嘉敷島の海岸にロケセットとして建てたのですが、美術の竹内さんとアイデアを出しながら、家の中は、巻貝の殻の内部構造のような、螺旋のイメージで作り、外観は盲目の学者の身を守るシェルターのイメージで意匠を凝らしました。

――抽象映像監督として映像作家・牧野貴さんが参加し、牧野さんによる映像が挿入されており、全体的に五感に訴えかける映像詩的な印象を受けます。

盲目の学者の記憶や想像が入り交じったシーンを映像作家の牧野さんと共に作っていきました。イモガイの毒のイメージや、いづみが見た幻覚、人間が自然のなかで治癒されるイメージ、戦争の気配等のイメージを牧野さんが島で撮影してきた自然物の画像を共有しながら、CGに頼ることなく一枚一枚の素材を幾十にも重ね合わせ、明滅させながら表現しました。
全体の編集は、途中、苦戦しましたが、NY在住のベテランエディター出口景子さんと、一つの作品としてのテンションを落とさない事を意識して仕上げていきました。

――音楽をジャズドラマー、ビリー・マーティンさんが担当していますね。

音楽家を探している中で、ジム・スタークさんの紹介で、ビリーさんの事を知り、実際にNYのアートギャラリーで行われたライブパフォーマンスを観に行きました。独創的で時にユーモアのあるパーカッションの演奏を聞いて、オファーしました。ニュージャージーにある彼のスタジオに行って、実際の映像を見ながら打ち合わせて、ビリーさんが過去に作った数ある音源を聞きながら、この映画に合うニュアンスを探して伝えました。結果、映像の世界感とうまく融合したと思っています。

――この作品をどのようにご覧頂きたいですか。

観る方によって、捉え方が様々に変化する作品だと思います。玉虫色に光る不思議な映画ですが、観客の方それぞれの感性、センス・オブ・ワンダーに触れるものになれたら幸いです。