ふたりが生き抜く道はあるのだろうか。
「弟を見分けた方法は?」
「“トリは?”って聞いた」
「施設がつけた名前をなぜ知ってたの?」
「……」
ロキタは質問に答えられずパニック発作を起こす。
ビザ取得のための面接。ベナン出身のトリとカメルーン出身のロキタ。ふたりはアフリカからベルギーへたどり着く途中で出会い、本当の姉弟のような絆で結ばれた。すでにビザが発行されているトリの姉と偽り、ロキタはビザを取得しようとしていた。
トリとロキタはイタリア料理店の客に向けてカラオケを歌って小銭を稼いでいる。しかし、それは表向きで、実はシェフのベティムが仕切るドラッグの運び屋をしている。今日もベティムに指示され、ドラッグを客のもとへと運ぶ。警察に目をつけられたり、常に危険と隣り合わせだ。ときに理不尽な要求もされる。それでも受け入れるしかない。人としての尊厳を踏みにじられる日々だが、トリとロキタは支え合いながら生活していた。
ある日、ベルギーへの密航を斡旋した仲介業者から、祖国にいる母親へ送金予定の金を奪われる。落胆するロキタ。ふたりの夢は、なにも邪魔されずに祖国に仕送りをして、ふたりでアパートを借りて暮らすこと。一刻も早く、ビザを手に入れて家政婦として働こうと、偽造ビザと引き換えに、ロキタはベティムが提案する孤独で危険な仕事を引き受ける。
目隠しをされて連れてこられたのは、外界からの情報を一切遮断された倉庫のような場所。
劣悪な環境。さらに、外部の者に場所を特定されないように、携帯電話のSIMも没収される。
トリとロキタはどんな時も一緒だった。
なのに、離ればなれになってしまう…。
支え合って生きるふたりの絆を断ち切ろうとする世界。
ふたりが生き抜く道はあるのだろうか。