INTRODUCTION 解説
パルムドール大賞と主演女優賞をW受賞した『ロゼッタ』以降、全作品がカンヌのコンペに出品され、世界中で100賞以上を獲得するという、偉業を越えて、もはや奇跡を起こし続けている監督ダルデンヌ兄弟。『トリとロキタ』では彼らの代名詞とも言える、BGMなし、演技未経験の主演俳優、削ぎ落された作劇に加え、先の読めないサスペンスを極め、第75回カンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を見事受賞している。ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、分断が進む世界で、アフリカ、中東、ウクライナと祖国を追われた者はどこで安息を得られるのか。もはや対岸の火事ではなく、いま、世界が直面している、人間の尊厳の在り方を突き付ける。ダルデンヌ作品で初めて、怒りまでをもにじませ、観客の良心を震わせる、シンプルでいて、これまでにない強靭な傑作が誕生した。
地中海を渡りヨーロッパへやってきた人々が大勢ベルギーに暮らしている。トリとロキタも同様にベルギーのリエージュへやってきた。トリはまだ子供だがしっかり者。十代後半のロキタは祖国にいる家族のため、ドラッグの運び屋をして金を稼いでいる。偽りの姉弟としてこの街で生きるふたりは、どんなときも一緒だ。年上のロキタは社会からトリを守り、トリはときに不安定になるロキタを支える。偽造ビザを手に入れ、正規の仕事に就くために、ロキタはさらに危険な闇組織の仕事を始める……。他に頼るもののないふたりの温かく強固な絆と、それを断ち切らんとする冷たい世界。彼らを追い詰めるのは麻薬や闇組織なのか、それとも……。
トリを演じたパブロ・シルズ、ロキタを演じたジョエリー・ムブンドゥともに演技初経験ながら、カンヌ国際映画祭でのワールドプレミア以降、各国のメディアが絶賛を贈る素晴らしい演技を見せた。彼らの気持ちに寄り添い、止まることないふたりを追うカメラの運動に、映画の原点を見る。そして、観客はふたりの幸せを祈りながら、固唾をのんで彼らをただ見守るのだ。
SYNOPSOS 物語
支え合って生きるふたりの絆を断ち切ろうとする世界。
ふたりが生き抜く道はあるのだろうか。

「弟を見分けた方法は?」
「“トリは?”って聞いた」
「施設がつけた名前をなぜ知ってたの?」
「……」
ロキタは質問に答えられずパニック発作を起こす。

ビザ取得のための面接。ベナン出身のトリとカメルーン出身のロキタ。ふたりはアフリカからベルギーへたどり着く途中で出会い、本当の姉弟のような絆で結ばれた。すでにビザが発行されているトリの姉と偽り、ロキタはビザを取得しようとしていた。

トリとロキタはイタリア料理店の客に向けてカラオケを歌って小銭を稼いでいる。しかし、それは表向きで、実はシェフのベティムが仕切るドラッグの運び屋をしている。今日もベティムに指示され、ドラッグを客のもとへと運ぶ。警察に目をつけられたり、常に危険と隣り合わせだ。ときに理不尽な要求もされる。それでも受け入れるしかない。人としての尊厳を踏みにじられる日々だが、トリとロキタは支え合いながら生活していた。

ある日、ベルギーへの密航を斡旋した仲介業者から、祖国にいる母親へ送金予定の金を奪われる。落胆するロキタ。ふたりの夢は、なにも邪魔されずに祖国に仕送りをして、ふたりでアパートを借りて暮らすこと。一刻も早く、ビザを手に入れて家政婦として働こうと、偽造ビザと引き換えに、ロキタはベティムが提案する孤独で危険な仕事を引き受ける。
目隠しをされて連れてこられたのは、外界からの情報を一切遮断された倉庫のような場所。
劣悪な環境。さらに、外部の者に場所を特定されないように、携帯電話のSIMも没収される。

トリとロキタはどんな時も一緒だった。
なのに、離ればなれになってしまう…。

支え合って生きるふたりの絆を断ち切ろうとする世界。
ふたりが生き抜く道はあるのだろうか。
監督・脚本

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

兄のジャン=ピエールは1951年4月21日、弟のリュックは1954年3月10日にベルギーのリエージュ近郊で生まれる。リエージュは労働闘争が盛んな工業地帯だった。ジャン=ピエールは舞台演出家を目指し、ブリュッセルで演劇界、映画界で活躍していたアルマン・ガッティと出会う。その後、ふたりはガッティのもとで暮らし、芸術や政治の面で多大な影響を受け、映画製作を手伝う。原子力発電所で働いて得た資金で機材を買い、労働者階級の団地に住み込み、74年から土地整備や都市計画の問題を描くドキュメンタリー作品を製作しはじめ、75年にドキュメンタリー製作会社「Derives」を設立する。
78年に初のドキュメンタリー映画“Le Chant du Rossignol”を監督し、その後もレジスタンス活動、ゼネスト、ポーランド移民といった様々な題材のドキュメンタリー映画を撮りつづける。86年、ルネ・カリスキーの戯曲を脚色した初の長編劇映画「ファルシュ」を監督、ベルリン、カンヌなどの映画祭に出品される。92年に第2作「あなたを想う」を撮るが、会社側の圧力により、妥協だらけの満足のいかない作品となった。
第3作『イゴールの約束』では決して妥協することのない環境で作品を製作し、カンヌ国際映画祭CICAE賞をはじめ、多くの賞を獲得し、世界中で絶賛された。第4作『ロゼッタ』はカンヌ国際映画祭コンペティション部門初出品にしてパルムドール大賞と主演女優賞を受賞。本国ベルギーではこの作品をきっかけに「ロゼッタ法」と呼ばれる青少年のための法律が成立するほどの影響を与え、フランスでも100館あまりで上映され、大きな反響を呼んだ。第5作『息子のまなざし』で同映画祭主演男優賞とエキュメニック賞特別賞を受賞。第6作『ある子供』では史上5組目の2度のカンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞者となる(註)。第7作『ロルナの祈り』で同映画祭脚本賞、セシル・ドゥ・フランスを主演に迎えた第8作『少年と自転車』で同映画祭グランプリ。史上初の5作連続主要賞受賞の快挙を成し遂げた。第9作『サンドラの週末』では主演のマリオン・コティヤールがアカデミー賞®主演女優賞にノミネートされた他、世界中の映画賞で主演女優賞と外国語映画賞を総なめにした。アデル・エネルを主演に迎えた第10作『午後8時の訪問者』もカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品。第11作『その手に触れるまで』は同映画祭コンペティション部門にて監督賞を受賞。本受賞により、審査員賞以外の主要賞をすべて受賞した。そして、第12作『トリとロキタ』で同映画祭にて第75周年記念大賞を受賞、9作品連続でのカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品の快挙を成し遂げた。
近年では共同プロデューサー作品も多く、マリオン・コティヤールと出会った『君と歩く世界』の他、『ゴールデン・リバー』『プラネタリウム』『エリザのために』などを手掛けている。他の追随をまったく許さない、21世紀を代表する世界の名匠である。

註)それまでに2度のパルムドール受賞者は、フランシス・F・コッポラ、ビレ・アウグスト、エミール・クストリッツァ、今村昌平だった。その後、12年にミヒャエル・ハネケ、16年にケン・ローチ、22年にリューベン・オストルンドが2度目の受賞を果たしている。

Filmographie

1977年
“dans les cites ouvrieres de Wallonie (Video d’intervention)
ワロン地方の労働者の街で” (参加型のビデオ作品)
1978年
“Le Chant du Rossignol ナイチンゲールの歌声”
1979年
「レオン・Mの船が初めてムーズ川を下る時」
1980年
“Pour que la guerre s’acheve, les murs devaient s’ecrouler
戦争が終わるには壁が崩壊しなければならない”
1981年
“R…ne repond plus 某Rはもう何も答えない”
1982年
“Lecons d’une universite volante 移動大学の授業”
1983年
「ヨナタンを見よ:ジャン・ルーヴェ、その仕事」
1986年
「ファルシュ」
1986
ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式出品
1987
カンヌ国際映画祭ある視点正式出品
リッチョーネ映画祭 SACD賞
ベルギー女性映画賞
1987年
“Il court.. il court le Monde 走る、世界は走る”
1992年
「あなたを想う」
1992
ナミュール国際映画祭 観客賞/
金のバイヤール(最優秀女優)賞(ファビアンヌ・バーブ)
1996年
『イゴールの約束』
1996
カンヌ国際映画祭 CICAE賞
ナミュール国際映画祭 作品賞/
金のバイヤール(最優秀男優)賞(オリヴィエ・グルメ)/観客賞
ジュネーヴ国際映画祭 プレス審査員賞(ジェレミー・レニエ)
バリャドリード国際映画祭 グランプリ/国際批評家連盟賞
ベルギー映画批評家協会賞 アンドレ・カヴァンス賞
1997
ロサンゼルス批評家協会 外国語映画賞
全米批評家協会 外国語映画賞
ファジル国際映画祭 グランプリ
ルーカス国際子供映画祭 批評家協会賞
ジョセフ・プラトー映画賞 最優秀作品賞/監督賞/
最優秀主演女優賞(ソフィア・ラブット)
ブリュッセル国際映画祭 最優秀ベルギー映画賞
ナショナルボードオブレビュー 外国語映画TOP5
2000
ナミュール国際映画祭 Bayard of the Bayards賞
1999年
『ロゼッタ』
1999
カンヌ国際映画祭 パルムドール大賞/
主演女優賞(エミリー・ドゥケンヌ) /エキュメニック賞特別賞
ベルギー映画批評家協会賞 アンドレ・カヴァンス賞
2000
シカゴ映画批評家協会
最優秀新人賞(エミリー・ドゥケンヌ)
フライアーノ国際賞 ゴールデンペガサス賞(最優秀監督賞)
ジョゼフ・プラトー映画賞 最優秀作品賞/監督賞/
最優秀主演女優賞(エミリー・ドゥケンヌ)

2002年
『息子のまなざし』
2002
カンヌ国際映画祭 主演男優賞(オリヴィエ・グルメ)/
エキュメニック賞特別賞
2003
ファジル国際映画祭 グランプリ/主演男優賞
(オリヴィエ・グルメ)
ジョゼフ・プラトー映画賞 最優秀作品賞/監督賞/
主演男優賞(オリヴィエ・グルメ)
リュミエール賞 最優秀フランス語圏映画賞
サンフランシスコ批評家協会 最優秀外国語映画賞
ベルギー映画批評家協会賞 アンドレ・カヴァンス賞
2004
セスキ映画祭 最優秀外国語主演男優賞観客賞
(オリヴィエ・グルメ)
2005年
『ある子供』
2005
カンヌ国際映画祭 パルムドール大賞
ロシア映画批評家協会 最優秀外国語映画賞
ベルギー映画批評家協会賞 アンドレ・カヴァンス賞
2006
スウェーデン映画賞 最優秀外国語映画賞
ジョゼフ・プラトー映画賞 最優秀作品賞/監督賞/
脚本賞/最優秀主演男優賞(ジェレミー・レニエ)/
最優秀主演女優賞(デボラ・フランソワ)
リュミエール賞 最優秀フランス語圏映画賞
トロント映画批評家協会 最優秀監督賞/
最優秀外国語映画賞
バルデイビア国際映画祭 最優秀作品賞
プネー国際映画祭 作品賞/監督賞
2008年
『ロルナの祈り』
2008
カンヌ国際映画祭 最優秀脚本賞
ラックス賞
2009
リュミエール賞 最優秀フランス語圏映画賞
2011年
『少年と自転車』
2011
カンヌ国際映画祭 グランプリ
ヨーロッパ映画賞 最優秀脚本賞
ヴァリャドリッド国際映画祭 選外佳作(トマ・ドレ)
フライアーノ国際賞 最優秀監督賞
ロベール・ブレッソン賞
フィエゾーレ賞
2012
ゴールデングローブ賞 外国語映画賞ノミネート
リュミエール賞 フランス語圏映画賞ノミネート
サンディエゴ映画批評家協会 外国語映画賞
ベルギー・アカデミー賞 有望若手男優賞(トマ・ドレ)
ナショナルボードオブレビュー 外国語映画TOP5
2013
セントラル・オハイオ映画批評家協会 外国語映画賞

2014年
『サンドラの週末』
2014
カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品
ヨーロッパ映画賞 最優秀女優賞(マリオン・コティヤール)
シドニー映画祭 グランプリ
ニューヨーク映画批評家協会 主演女優賞
(マリオン・コティヤール)
ボストン映画批評家協会 主演女優賞
(マリオン・コティヤール)/外国語映画賞
ニューヨーク映画批評家オンライン賞
主演女優賞(マリオン・コティヤール)/外国語映画賞
ボストン・オンライン映画批評家協会
主演女優賞(マリオン・コティヤール)/外国語映画賞
オンライン映画批評家協会 外国語映画賞
ダブリン映画批評家協会
主演女優賞(マリオン・コティヤール)
サンディエゴ映画批評家協会
主演女優賞(マリオン・コティヤール)
インディアナ映画ジャーナリスト協会 外国語映画賞
女性映画批評家協会 外国語映画賞
全米映画批評家協会 主演女優賞(マリオン・コティヤール)
デンバー映画批評家協会 外国語映画賞
ジョージア映画批評家協会
主演女優賞(マリオン・コティヤール)
ナショナルボードオブレビュー 外国語映画TOP5
ACCA賞 最優秀外国語映画賞
ベルギー映画批評家協会賞 アンドレ・カヴァンス賞
プロジー賞 カレン・モリー賞(マリオン・コティヤール)
2015
アカデミー賞 主演女優賞ノミネート(マリオン・コティ
ヤール)
国際シネフィル協会賞 主演女優賞(マリオン・コティヤー
ル)
2016年
『午後8時の訪問者』
2016
カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品
2017
オンライン映画批評家協会 最優秀米国未公開作品
2018
SESC映画祭 最優秀外国人女優賞(観客選出)
2019年
『その手に触れるまで』
2019
カンヌ国際映画祭 監督賞
バリャドリッド国際映画祭 脚本賞/編集賞
2020ベルギー・アカデミー賞
有望若手男優賞(イディル・ベン・アディ)/
助演女優賞(ミリエム・アケディウ)
2022年
『トリとロキタ』
2022
カンヌ国際映画祭 75周年記念大賞
サンセバスチャン国際映画祭 バスク国2030アジェンダ賞
セビリアヨーロッパ国際映画祭 EFA部門観客賞
エルサレム映画祭 国際映画部門審査員特別賞(パブロ・シ
ルズ)
カステリナリア・ヤング映画祭 35周年名誉賞
ルーカス国際こども映画祭 ヤング賞
オウレンセ国際映画祭 脚本賞

※『』は日本公開作、「」は映画祭・特集上映で上映、“”は未公開作
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監督の言葉

この映画は、美しく激しい、決して裏切られることのない、
ある揺るぎない友情についての物語です。

このような友情を映画の核に据えて初めて、私たちはトリとロキタというふたりの主人公が、唯一無二のキャラクターとして生きていることを実感しました。
“保護者のいない、未成年の亡命者”というメディアが定義した若い移民のイメージを超え、彼らは単なる事例、状況、主題ではなくなりつつあります。
彼らの状況を軽んじているわけではありません。
むしろ、迫害され、搾取され、尊厳を踏みにじられる孤独な子供たちの状況は、新たな局面を迎えています。
ふたりの友情は、そういった状況に対抗していくことで強さを増していく。
この映画は、知らず知らずのうちに、私たちの国やヨーロッパに亡命した子供たちが経験している、暴力的で不当な状況を告発するものとなりました。

10代の少女ロキタと、まだ幼い少年トリ。
アフリカのカメルーンとベナンから来たふたりにとって、日常生活、密航仲介者への支払い、闇組織の仕事、故郷への送金などを、ただ互いに助け合うことだけが友情ではありません。
その友情は一方がいなければ、他方が存在していられないもの――姉弟として愛し合うこと、悪夢にうなされないように家族でいること、孤独やパニック障害に陥ったときに言葉や歌で慰め、触れ合うことなのです。

私たち監督に課せられた課題は、サスペンス映画や冒険映画から引用したプロットの中でふたりの主人公の相互扶助と優しさを映し出し、他者を救うために自己犠牲を払うほど極限まで発展する友情を描くことでした。

私たちの脚本では、トリとロキタの身体の動きを描写する方法とふたりの行動を重視しました。
自分の持ち物を交換すること、ふたりで歌う歌、そしてお互いがお互いに向かって見せる優しい仕草。
私たちのカメラとマイクは、彼らの身体、しぐさ、視線、言葉の細部に焦点を当て、この友情を描き出しました。
この友情は、異郷の地に亡命し生きる困難に耐えることを可能にします。そして、自分たちの利益ばかりを追求する他者に無関心な社会で、人間の尊厳を守る貴重な避難場所にもなりえることも証明するのです。

主人公の年齢設定もあり、プロの俳優は起用しませんでした。
そのため、キャスティングには長い時間を要しました。
この作品では、演技だけではなく歌を歌う必要もありました。
他の役についても、観客が作品のあらすじに勘づいてしまわないような、有名人でないことが重要でした。

撮影はベルギーのリエージュとコンドローという地域で、いつものスタッフで行いました。
私たちは、前触れもなく風が突然吹きつけることができるような、照明とロケーションに関心があります。
そうすることで、不意打ちのように、トリとロキタの友情を目の前に出現させることができるのです。

このふたりの若い亡命者とその揺るぎない友情に深い共感を覚えた観客が、映画を観終えた後で、私たちの社会に蔓延する不正義に反旗を翻す気持ちになってくれたら。
それが、私たちの願いです。

ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

出演者
  • トリ(パブロ・シルズ)

    ベルギー出身の13歳。撮影当時は12歳だった。自身を「活発な性格」という元気な少年。学校で行われた公開オーディションでダルデンヌ兄弟に見出された。本作品で演技に初挑戦し、映画初出演にして主演を務め、エルサレム映画祭国際映画部門の審査員特別賞を受賞した。

  • ロキタ(ジョエリー・ムブンドゥ)

    ベルギー・ブリュッセル出身の18歳の高校生。本作が初めての映画出演にして初主演。英語、フランス語、オランダ語が堪能なトリリンガル。俳優を志したのは3年前で作品に出演するためにフランスとベルギーのキャスティング・エージェンシーに手紙を送り続ける。本作ではベルギーのリエージュで選ばれた。選ばれた当時はダルデンヌ兄弟のことは知らなかったが、兄弟の作品だと知らずに『ロルナの祈り』と『その手に触れるまで』は観ていたという。コンゴのルブンバシとキンシャサをルーツに持ち、3歳の時にフランス・パリからベルギーに移った。新進気鋭の俳優が選ばれる本年度のヨーロピアンシューティングスターに最年少で選出されている。

  • ベティム(アウバン・ウカイ)

    1980年7月25日、コソボ出身。「J.A.C.E.ジェイス」(11/メネラオス・カラマギョーリス監督)で主演を務める。その他、第93回アカデミー賞®国際長編映画賞にノミネートされた『アイダよ、何処へ?』(20/ヤスミラ・ジュバニッチ監督)に出演するなど、映画、ドラマで様々な作品に出演。ダルデンヌ作品は『ロルナの祈り』(08)にも出演している。

  • ルーカス(ティヒメン・フーファールツ)

    1994年、ベルギー・メヘレン出身。アントワープ音楽院で執筆、メディア、舞台を学び、俳優を志す。これまでに数々の映画やドラマで活躍。カンヌ国際映画祭で3冠を獲得し、ゴールデングローブ賞外国語映画賞にもノミネートされた『Girl/ガール』(18/ルーカス・ドン監督)では主人公の恋人を演じ注目を集める。ダルデンヌ作品には

  • マルゴ(シェルロット・デ・ブライネ)

    1990年9月11日、ベルギー出身。2002年から劇団で活躍している。“Little Black Spiders”(12/パトリス・トイ監督)に出演以降は映画やドラマで幅広く活動し、ジェイミー・ドーナン主演「不都合な契約」(14/ドミニク・デリュデレ監督)でヒロインを演じた。

  • ジャスティーヌ(ナデージェ・デ・エドラオゴ)

    ブルキナ・ファソ・ワガドゥグー出身。これまでも『午後8時の訪問者』(15)、『その手に触れるまで』(19)などダルデンヌ作品に出演している。その他の出演作品に『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』(18/ケン・スコット監督)などがある。

  • フィルマン(マルク・ジンガ)

    1984年10月21日、コンゴ出身。俳優以外にも歌手や監督としても活動している。『午後8時の訪問者』(15)、『その手に触れるまで』(19)でダルデンヌ作品にも出演。その他の出演作品に『ミスター・ノーバディ』(09/ジャコ・ヴァン・ドルマル監督)、『007/スペクター』(15/サム・メンデス監督)などがある。

映画評

生きる事は かくも過酷で 切なく 尊いのか。
サスペンス、社会性、愛の物語、全てが超一級★★★★★

天童荒太(作家)

彼らを巻き込む社会の不条理は人間の仕業で、
荒波の中でお互いを助け合おうとする心も、どこまでも人間らしい無償の愛だ。
矛盾ばかりの現実に言葉を失うしかない。
悲しみを超えた2人の表情が忘れられません。

仲野太賀(俳優)

映画を観た気がしません。
始めから終わりまで俳優ではない、
生の人間が現場にいるかのような現実感です。

谷川俊太郎(詩人)

トリとロキタ。
互いを呼び合うその美しく切実な声に胸が締めつけられる。

安易な救いや楽観を拒絶する作り手の静かな覚悟を感じた。

早川千絵(映画監督『PLAN75』)

全員正しくて、全員間違ってる。
自分には、ただそれを見ることしか許されない。
「ロキタ」というトリのあの叫びだけが、いつまでも耳にこびりついてる。

尾崎世界観 (クリープハイプ)

愛の注ぎ方は冷酷だね。
自分や身内には容易だが、血が繋がっていない他人に同じ量は難しい。
正直それがほとんどの人間の常だ。
それでもトリとロキタのような人たちはいる。
「そんな世界もあるんだ」で消化できない何かを焚き付けてきた。

川上洋平 [Alexandros]

強い絆で結ばれた偽姉弟の愛に、不条理に手を伸ばす社会の闇。
観ている僕らにも、冷たい現実を突き付けられる。
混沌とした時代にしっかり目を向けなければならない。

磯村勇斗(俳優)

トリとロキタが共に走り、笑い、歌う、その全てが愛おしかった。
誰もその時間は奪えないはずなのに、奪われてゆく。
ダルデンヌ監督にこの映画を作らせた、
「移民・難民が存在しないかのようにされている」ことへの怒りは遠い他国のことではなく、
私たちのすぐ近くの日常にも深く繋がっている。
必見の作品。

川和田恵真(映画監督『マイスモールランド』)

「二人でいられればそれで幸せ」
恋人でも夫婦でもない二人からそんな気持ちを教えてもらい、
ただただ幸せな気持ちになりました。
トリの写真を眺めながら食事をするロキタの姿を、
劇場のみなさんで抱きしめてあげて欲しいです。


マキヒロチ(漫画家)

手でつかめるほどの魂の昇華を感じる。
慰めも嘆きもいらない。
これは血の繋がらない姉弟による、小さな幸せの日々を描いた名作だ。

樋口毅宏(作家)

あまりに理不尽で悲惨な状況にも、深い友情で対抗し、
もがき続ける二人の姿に、胸が張り裂けそうで、
鑑賞後はしばらく放心状態でした。
映画ファンだけでなく、全ての人が観るべき作品だと思います。

井之脇海(俳優)

難民ボートの上で出会った日から姉と弟になることを決め、
お互いの存在だけを支えに生きているトリとロキタの姿に胸がしめつけられ、
一瞬も目を離すことができない。

中島京子(小説家)

苛酷な現実の中で支え合うトリとロキタの逞しさが胸をうつ。
どこか遠い国の話とは思えない。思ってはいけない。
この物語の続きは、いまを生きる私たちに託されている。

豊田エリー(俳優)

自力で生きていこうとする難民の子供の過酷な生活は
フィクションと思えないほど生々しく描かれています。
肉親以上に互いを頼りにする姿に心を打たれます。

ピーター・バラカン(ブロードキャスター)

愛があれば大丈夫、なんて言葉は、
ダルデンヌ兄弟の映画には通用しない。
でも、観終わった時、彼らはいつも教えてくれる、
愛は美しいと。
偽りの姉弟の真実の愛に、心を抉られました。

中野量太(映画監督)

理不尽な世にもてあそばれる二人を
スクリーンで隔てた安全な場所から見ていることに後ろめたさを感じながらも、
一瞬たりとも目をそらすことができませんでした。

城定秀夫(映画監督)

トリとロキタの願いはただひとつ。
ただ一緒にいたいだけ。

そのとき二人は本物以上に本物の姉と弟となり、真の家族となる。
しかし、そんなささやかな幸福すら二人には許されないのか?
形式的な善意、むき出しの暴力、そして何より私たち自身の無関心が、
支えあう二人を引き離そうとする――

小野正嗣(作家)

「不法滞在」「犯罪者」というレッテルをはられ、
人格 を剥ぎ取られて伝えられる「ニュースの中の人々」。
映画なら、一人ひとりの命の輪郭に触れることができる。
トリやロキタのような存在に「出会う」ことができるから。

安田菜津紀(認定NPO法人Dialogue for People副代表/フォトジャーナリスト)

2人の若い俳優の存在感は映像にギリシャ悲劇の力強さを与え、
彼らの生の軌跡は先進国の暗い現実を隈取り、切り裂く。
これはダルデンヌ兄弟の到達点だ。

池田香代子(翻訳家)

現実1。弱い者がより弱い者を利用する。
現実2。弱い者がより弱い者と支え合う。
現実3。強い者は見えない。だが世界の構造を形作る。

望月優大(ライター)

今、こうしてこの作品を観ている自分は、
この中に広がっている世界と近いのだろうか、遠いのだろうか。

そうやって計測してしまう冷徹さを問う映画でもある。

武田砂鉄(ライター)

これでは事実上の奴隷制ではないか。
空想の産物であってほしいと願いながら見たが、
綿密なリサーチに基づいて描かれた作品だった。
この世に存在するであろう無数のトリとロキタを想像すると、
息が苦しくなる。

想田和弘(映画作家)

ビザを得れず、不条理な生活を強いられる移民の友人を前に
何も出来ずにいた自分を追体験しているかのようなリアルな描写に圧倒された。
ぜひ多くの同世代に見てほしい。

山口由人(一般社団法人Sustainable Gameファウンダー)

痛みと不公平さを見事に描き出し、
その力強さに胸が張り裂ける。
必見!

Les Inrockuptibules

彼らのフィルモグラフィーの頂点として際立つ、過酷な感動作。

Les Echos

真の社会派スリラー。

PREMIERES

サスペンスに溢れたスリリングな映画。
パブロ・シルズとジョエリー・ムブンドゥには驚くばかりだ。

20Minutes

ダルデンヌ兄弟が、切実な問題でありながら
感動的な映画をまたしても届けてくれた。

Le Parisien

 

素晴らしすぎる。
胸が張り裂け、言葉にできない。
ダルデンヌ兄弟史上、最も感情移入する映画だ。

THE HOLLYWOOD REPORTER

最も美しいダルデンヌ作品のひとつ。
その演出は名人芸だ。
『トリとロキタ』に揺さぶられ、かみしめる。

Positif

ここ数年の彼らの作品の中で最も高い強度を持つ作品。
人間らしさが炸裂する静かなドラマ。
シルズとムブンドゥ、ふたりから目が離せない。

THE WRAP

この映画を最も美しく輝かせているのは、ふたりの偽りの弟と姉の間の神秘的で
力強いつながりを生き生きと描き出すダルデンヌ兄弟の才能にほかならない。

Libération

若い移民であるふたりの清らかで魅惑的な物語で、ダルデンヌ兄弟は、また感動させる。
2022年のカンヌ国際映画祭のベストムービーのひとつ。

aVoir aLire

抗いがたいほど、深い感銘を与える物語。
サスペンス的で、釘付けになる。
パブロ・シルズとジョエリー・ムブンドゥは、
今年のカンヌ国際映画祭に出品したどの俳優よりもレベルの高い、
並外れた演技を披露している。
ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌはまた勝利を手にした。

DEADLINE

ダルデンヌ兄弟の最高傑作。

TRANSFUGE

明快でシンプル、そして心を鷲掴みにする。

Le Parisien

『トリとロキタ』に触れると、スリラーのように感電し、
平手打ちをくらったかのように気を引き締められる。
ハラハラさせられ、没頭させられる。
ダルデンヌ兄弟作品史上、最も純粋なサスペンス映画。
まるで、ヴィットリオ・デ・シーカが経済的不公平な現代について語っているかのようだ。

VARIETY

強く心を揺さぶる。

Voici

非常によくできた硬派な社会派ドラマ。
89分間、作為を感じさせず、ただ人間の悲劇を丸ごと生き抜いているかのようだ。
魅惑的な真実の演技で映画を支えるふたりの主役。
『トリとロキタ』は、感動的で、啓発的で、それでいて冷静な作品だ。

AWARDS DAILY

深い人間らしさ。
ヨーロッパに存在する子供たちの運命に対する反乱の叫びだ。

LA CROIX

常に緊張して、目を開いてみるべき、
心を掴まれる映画。

Télérama

傑作!
ダルデンヌ兄弟の社会的良心が、再び純粋なヒューマニズムの過激さとなって表出している。

franceinfo:culture

パブロ・シルズはトリというキャラクターを優しく感動的に演じている。
その演技は稀に見るほど精巧なものだ。

エルサレム映画祭審査員