『ケイコ 目を澄ませて』(22)、『夜明けのすべて』(24)などで映画賞を席巻し、現代日本映画界を牽引する三宅唱監督の最新作『旅と日々』。原作は、つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」。2020年フランスのアングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞に輝いた稀代の漫画家の、初版から50年以上を経た2作を三宅監督が見事な手腕で現代的にアップデートした。そして、世界で最も歴史ある国際映画祭の一つであるロカルノ国際映画祭にて日本映画では18 年ぶりとなる金豹賞《グランプリ》に加え、ヤング審査員賞特別賞をW受賞。既にUS、フランス、韓国、中国、台湾、香港、インドネシア、ポルトガル、ギリシャでの配給も決定するなど、世界が最も注目している日本映画監督と言っても過言ではない。
主人公・李を演じるのは、『新聞記者』(19)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞し、韓国出身ながら日本映画界に不可欠な俳優シム・ウンギョン。共演に映画、テレビ、舞台と縦横無尽に活躍する堤真一、2024年の映画賞を多々受賞した河合優実、話題作への出演が続く髙田万作、さらに、つげ義春作品に欠かせない俳優・佐野史郎を加え、屈指の実力派俳優陣が集結した。
強い日差しが注ぎ込む夏の海。ビーチが似合わない男が、陰のある女に出会い、ただ時を過ごす――。脚本家の李は行き詰まりを感じ、旅に出る。冬、李は雪の重みで今にも落ちてしまいそうなおんぼろ宿でものぐさな宿主、べん造と出会う。暖房もなく、布団も自分で敷く始末。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出すのだった……。
恋愛や友情、仕事の同僚でもない、名のない関係性の登場人物たち。人と人、その背景にある時間と空気までをも丁寧にすくい取る。これまでの作品同様に、三宅唱監督はかすかなきっかけで心が回復していく様を描き出す。旅先での小さな出会いが、ほんのちょっと、それでも確かに人生を変えることがある。誰しもの人生に寄り添うようなあたたかく優しい視線が観る者の心をそっと包み込む、目にも耳にも鮮やかな傑作が誕生した。