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 解説2/2・戻る
恋×デジカム=青山真治の新たな挑戦
 デビュー作『Helpless』以来、ハイペースで話題作を発表してきた青山真治にとって、本作は初めて手掛ける女性を主人公にした恋愛映画。しかしステレオタイプの恋愛物語を描くのではなく、主人公二人が本来の自己を発見し、相互に認めていくまでの姿と、新しい世界に足を踏み出す様をみごとにシンクロさせたのは、青山真治ならではの切り口と言える。また、これまでの青山作品同様、本編中の音楽はすべて監督本人と山田勲生が共同で創作し、そのオリジナリティは、ナレーションやモノローグの絶妙な使い方にも現れている。そして、青山監督にとっての新しい試みとして、本作は全編の80%がデジカムで撮影されているのだが、日常部分がデジカムで、森のシークエンスがフィルムでの撮影となる。デジカム画面の生々しさとフィルム部分の質感の違いが、やがて同調する時、主人公たちは心晴れるかのように新しい世界に辿り着く。器材としてのデジカムではなく、テーマを描くうえで不可欠な手法としてその成果を上げている。これまでの作品とはまったく趣が異なり、"恋愛"を媒体として、<現実>のひとつの生き方を描いた本作は、青山真治の新たな章の幕開けとなるだろう。

今、最も注目される若手俳優たち。
 主役の藤尾理花を演じる粟田麗は、映画デビュー作である市川準監督『東京兄妹』でブルーリボン賞新人賞を受賞した演技派。感情に走りがちだが、しっかりと自分に向き合う勇気を兼ね備えた理花を好演。甲野には、トップモデルとして、数々のファッション・ショーや、ファッション誌で活躍し、是枝裕和監督『ワンダフルライフ』で映画デビューを飾ったARATA。独特の浮遊感をもって、"宙に浮く"甲野を体現している。そしてTV「特命リサーチ200X」などで活躍する関口知宏が、利己的だが、憎めない小野を飄々と演じている。甲野の後輩・宗近に、青山作品に欠かせない斉藤陽一郎、そしてこれら若手にストーリーテラーでもある探偵ナツイシを演じる光石研が加わり、作品に奥行きを与えている。

夏目漱石「虞美人草」をベースとしたキャラクター
 役名からも明らかだが、『シェイディー・グローヴ』の登場人物は、夏目漱石の「虞美人草」がベースとなっている。漱石は女主人公・藤尾を、愛情を理解しえない、非常に自己中心的な女性として描いている。甲野はその腹違いの兄。哲学的思考の持ち主で、物欲とは無縁の男である。小野は甲野と反対に、通俗的で出世願望の強い男として登場する。「虞美人草」では、小野との結婚を望む藤尾は、それが裏切られた瞬間にショック死する。甲野と藤尾は仲のよい兄妹とは言えないが、彼が妹を誰よりも深く理解しているのは随所に感じられる。青山監督が次元を変え、藤尾を殺すことなく、兄妹をパートナーとして現代的に昇華させた展開は大変興味深いだろう。