イントロダクション

パルム・ドール大賞受賞!カンヌで世界を魅了した3時間16分

2014年、第67回カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルム・ドール大賞を受賞した『雪の轍』。『さらば、愛の言葉よ』(ジャン=リュック・ゴダール)、『フォックスキャッチャー』(ベネット・ミラー)、『Mommy マミー』(グザヴィエ・ドラン)といった作品に注目が集まる中、映画祭期間の3日目という早い段階に上映されるや否や、メディアからの絶賛が相次ぎ、最高賞の有力候補となった。監督はトルコ映画界の巨匠、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン。カンヌ国際映画祭で、すでに2回のグランプリと監督賞を受賞し、満を持しての最高賞受賞となった。世界を魅了した濃厚な世界観と圧倒的な映像美を3時間16分に凝縮した本作について、「登場人物を通して、人間の魂の暗部を探索したかった」と語っている。
なお、同監督の作品が日本国内の劇場で上映されるのは、本作品が初めてである。

チェーホフ×シェイクスピア×シューベルトがもたらす極上の映画体験

文豪チェーホフの著作に着想を得て、カッパドキアの地名の由来になった馬、シェイクスピアの一節、そしてあたり一面を白く染める雪などのモチーフをちりばめ、さらにシューベルトのピアノソナタ第20番の旋律とともに、裕福なものとそうでないもの、西洋的な世界とイスラム的な世界、男と女、老いと若さ、エゴイズムとプライド、そして愛と憎しみといった様々な普遍的要素が対峙されていく。壮大なカッパドキアの風景とはうらはらに、閉塞感に満ちた部屋の中でむきだしの感情をさらけ出し、お互いにぶつけ合う登場人物たちに、観客はそこはかとない滑稽さを覚えるだろう。人を赦すこと、愛すること、分かり合うことは、こんなにも苦しく困難なものなのだろうか。しかし、人間の心の秘められた部分をえぐり出しながら濃密さを増していく会話劇に、観客はやがて自らの心の底を映しだされるような体験をしていることに気づく。そして、今まで体感したことのない極上の見応えに、観客は完膚なきまでに圧倒されるのだ。