Bitters End
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『旅立ちの汽笛』
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ストーリー<旅立ちの汽笛
BITTERS END shopping gallary

 兵役の前の 身体検査。少年の日焼けした大きな背中にあてられた聴診器からは、規則正しく心臓が鼓動するのが聴こえる。廊下では頭を丸坊主に刈った少年たちが順番を待っている。


 夜更けに 母親から起こされた少年は、今日もまた父親が酔っ払ってどこかに留め忘れてきたらしいバイクを探すように言われる。闇の中を歩き回り、ようやくバイクを見つけて家に帰ると、酔った父親が暴れ、母親ととっくみ合いをしていた。とめに入った少年が今度は父親と掴み合いになる。騒ぎ声で目を覚ました妹が、目に涙をいっぱい溜めてその様子を見ている。


 少年は 仲間たちの間でチンプというあだ名で呼ばれている。耳が少しとがって前に傾いている感じが猿のそれと似ているからである。走る貨物列車の横を二人乗りした自転車で飛ばして追い越すチンプたち。秘密の場所に友達と集まってすることといえば、タバコを吸って、酒を回し呑みすること。そして目下の関心事は兵役の前に女の子と“やる”ことだ。女の子とあやとりしながら靴の先にのせた鏡でスカートの中を覗き見したり、友達のセリョージャが手に入れたヌード写真の載ったトランプを見てどの女がタイプかとはしゃいでみたり。まだまだあどけない少年たちの頭の中は異性のことでいっぱいだ。


 真夏の夜の ダンスパーティ。闇夜に浮かぶライトは頬を照らし、バンドが鳴らす激しいビートは心臓を打ち、少年たちの体は次第に熱を帯びてくる。思い思いのステップを踏んで踊り戯れる少年たち。女の子の前でかっこつけて、とかす髪もない坊主頭に櫛をあててみたかと思えば、その櫛で今度はズボンの折り目をつけてみる。持て余した力を発散させるかのように、女の子の奪い合いで、他のグループの少年たちと喧嘩をして、警官に追いかけられたりもする。


 チンプにも密かに 思いを寄せている女の子がいた。その娘の名前はヴィカ。すらりとした脚がきれいで風になびく柔らかい金髪がとてもすてきな女の子。いつもチンプは遠くから見つめているだけである。ある晩、皆でセリョージャの家に集まった。レコードから流れるスローな曲に合わせてダンスが始まった時、チンプは思い気ってヴィカと踊ろうと踏み出すが他の少年にとられてしまう。

ビジュアル
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 兵役までの間、 チンプは鉄道整備の仕事を手伝っている。兵役の前に女の子と遊ばなきゃと大人たちにからかわれながら、線路を点検してゆく。踏切近くの鉄塔に駐在しているカーチャは、チンプの憧れの女性。とても綺麗な顔立ちだがなぜだか寂しげな眼をしていて、片方の頬に大きなあざがある。鉢に咲く紅い花の手入れをしながらカーチャは今日も鼻歌を歌っている。


 時にはチンプも 家で夕飯のしたくを手伝うことがある。中庭の食卓で、いたずら好きな妹と、母親も交えてじゃれあいながら、久しぶりに明るい声が家のなかにこだまする。そして、今日に限って酒の入っていない父親が不機嫌な面もちで帰ってきて水を差すのだった。「うるさい!騒ぐな!」


 ある日、 職場仲間2人が太った娼婦ジーナをバイクに乗せて仕事場にやってきた。帰ると言いだしたジーナをバイクで送るように言われたチンプは青空の下、ジーナを乗せてバイクを走らせる。チンプの背中にぴったりと抱きついて、ジーナは陽気に歌を唄いながら、だんだんとその手をチンプの股間に当ててゆき、からかう。腹立ち半分、もやもやした気持ち半分でチンプがいてもたってもいられなくなったその時、ガソリンが切れてバイクは止まってしまった。火照った身体を冷ますためチンプは一人河に飛び込んだ。


 日が暮れて、 大きなポプラの木の下に皆で集まって、焚き火を囲み、ギターを弾いて歌を唄っていると、酔っぱらったチンプの父親が、呑み仲間とジーナと共にバイクでやってきて、飲み屋に酒をせがんでいた。腰が立たず壁にへばりついた父親の姿に見かねたチンプは立ち上がって、父親を背中にかついでサイドカーに乗せた。呑み仲間から大声で怒鳴られながら、懸命にバイクのエンジンをかけようとするがかからない。その様子を見ていたセリョージャが、歌の輪から抜け出して2人が乗ったサイドカーを押して手伝う。


 父親の酒癖の悪さ についに我慢ができなくなった母親は子供たちを連れて家を出ることを決心する。チンプは村を出るバスにいったんは乗り込んだが、職場に仕事をやめるとことを伝えて断ってくると言ってバスから降りるのだった…。