この映画の原作となったフランスのコミック「LE TRANSPERCENEIGE」に初めて出会ったとき、私が真っ先に惹かれたのは、列車という独特な映画的空間でした。何百もの金属のかけらが蛇のように動き、その中に人間が蠢いている、というイメージが私の心を掴んだのです。人々はその中で戦いあっている。最後の人類を乗せたこの“ノアの箱舟”の中でさえ、人は平等ではなく、車両に分割されているのです。
私は、極限状態での人間の本性を探ってみたいと思いました。その極限状態とは、連続殺人鬼であり、漢江(ハンガン)に現れる怪物であり、狂気に陥る母親であり――だから、「LE TRANSPERCENEIGE」と出会ったのは、私にとって運命のようなものでした。
原作コミックは素晴らしく、そのアイデアはオリジナルなものですが、映画的興奮が詰め込まれたものにするために、完全に新しい物語、新しいキャラクターを創造する必要がありました。
狭く、直線的な列車の内部には、回り道は存在しません。どこかに行くためには、前に進むしかないのです。肉体はぶつかり合い、汗は血と混じりあいます。私が描きたかったのは、そうした状況から生じる恐るべきエネルギーと、映画的感動でした。
私はこの映画を「アクション」という言葉で単純化したくはありません。というのも、この強烈な葛藤の中には、喜びや悲しみ、愛や快楽など、誰もが感じる様々な感情が存在するからです。
列車は猛スピードで走っていますが、中にいる人間も、前へ前へと突き進みます。この2種類のスピードを、観客にも共有してもらいたいと思っています。
ポン・ジュノ
1969年9月14日、大韓民国出身、ソウル在住。延世大学社会学科卒業後、95年、16mm短編のインディペンデント映画「White Man」等を監督、シニョン青少年映画祭で奨励賞を受賞。同年、韓国映画アカデミーの第11期生として卒業。卒業作品「支離滅裂」の独特のユーモアとセンスが大きな話題を呼び、バンクーバー国際映画祭、香港国際映画祭に招待され、その名を知られるようになる。2000年に劇場映画長編デビュー作となる『吠える犬は噛まない』を発表。監督・脚本を務めた本作で高い評価を受け、一躍注目を浴びる存在となる。03年には、実際の未解決事件を題材にした『殺人の追憶』を手掛け、大ヒットを記録。完璧と評される構成力とその類い稀なる才能が高く評価され、カンヌ国際映画祭をはじめ、その名は世界へと一気に広がっていく。
そして06年、韓国歴代動員史上1位を獲得した『グエムル-漢江の怪物-』を発表。同年のカンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭でも絶賛されたこの作品で、若くして韓国を代表する監督としての地位を確立した。
08年には、ハリウッドからの数多くのオファーを断り、初の海外監督作品として選んだ『TOKYO!』に、ミシェル・ゴンドリー、レオス・カラックスと共に参加。3部作のうちの一編『TOKYO!<シェイキング東京>』を、主演に香川照之、そのほかキャストに蒼井優、竹中直人らを迎えて東京で撮影。日本、韓国、米国をはじめ世界各国でヒットを記録した。09年には韓国の人気俳優ウォンビンとベテラン女優キム・ヘジャを迎えた、待望の長編4作目『母なる証明』を発表。カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され、サンフランシスコ批評家協会外国語映画賞、ロサンゼルス批評家協会主演女優賞ほか多数の賞を受賞した。
【フィルモグラフィー】
2000 吠える犬は噛まない 脚本・監督
2003 殺人の追憶 脚本・監督
2006 グエムル-漢江の怪物- 脚本・監督
2008 TOKYO!<シェイキング東京>
(『TOKYO!』内の1話)脚本・監督
2009 母なる証明 脚本・監督
2013 スノーピアサー 共同脚本・監督