雑誌を売る。麻薬を売る。それが日常。
予告編

映画『ローサは密告された』 世界が注目する鬼才ブリランテ・メンドーサ監督最新作 絶賛上映中!

雑誌を売る。麻薬を売る。それが日常。映画『ローサは密告された』 世界が注目する鬼才ブリランテ・メンドーサ監督最新作 絶賛上映中!
予告編

Introduction

東南アジア最大のスラム街を擁するマニラ。
この無法地帯でただ毎日を生きる、ある女の物語。
ロドリゴ・ドゥテルテ大統領による過激な麻薬撲滅への道程をここに見る。

ローサはマニラのスラム街の片隅でサリサリストアを夫ネストールと共に経営している。かつての日本の下町のように、密接して暮らす人々のつながりは深い。ネストールはいつもだらだらしてばかりだが気は悪くない。店を切り盛りするのはローサ。ローサには4人の子供がおり、彼らは家計のため、本業に加えて少量の麻薬を扱っていた。ある日、密告からローサ夫婦は逮捕される。さらなる売人の密告、高額な保釈金……警察の要求はまるで恐喝まがいだ。この国で法は誰のことも守ってくれない。ローサたち家族は、したたかに自分たちのやり方で腐敗した警察に立ち向かう。

2015年現在のフィリピンの貧困率は約22%、その多くがひしめき合ってスラムに暮らしている。スラムでは犯罪は絶えず、薬物常習者、密売人も多い。しかし、警察は押収した麻薬の横流しや密売人への恐喝など“捜査”の名のもとに私腹を肥やし、悪事がバレそうになれば暴力も殺人もいとわない。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領就任後、麻薬に関わる者は警察・自警団により超法規的に殺され、恐れをなして自首する者が後を絶たず、刑務所の収監人数を大幅に超えているという。一般市民が貧困から麻薬密売に手を染めた結果、警察から命を狙われるという麻薬撲滅戦争の恐怖の連鎖が、『ローサは密告された』に垣間見える。

第69回カンヌ国際映画祭主演女優賞受賞!
本年度アカデミー賞外国語映画賞フィリピン代表!
世界三大映画祭でも高く評価されているブリランテ・メンドーサ監督最新作。

45歳のデビュー作「マニラ・デイドリーム」で第58回ロカルノ国際映画祭ヴィデオ・コンペ部門金豹賞を受賞し、「第3黄金期」と呼ばれる現在のフィリピン映画シーンを牽引しているブリランテ・メンドーサ。世界三大映画祭であるカンヌ、ヴェネチア、ベルリンすべてのコンペティション部門でその作品が上映され、世界中で50を超える賞を獲得、第62回カンヌ国際映画祭では「キナタイ-マニラ・アンダーグラウンド-」で監督賞を受賞、クエンティン・タランティーノやショーン・ペンがその才能を絶賛するなど、世界中で高い評価を得ている。本作は第69回カンヌ国際映画祭で、クリステン・スチュワート、シャーリーズ・セロン、レア・セドゥ、イザベル・ユペールらを抑えて、ローサを演じるジャクリン・ホセにフィリピン初の主演女優賞をもたらした。審査員のひとりだったドナルド・サザーランドはホセを「超一流の演技」と絶賛し、キルステン・ダンストはラストシーンで感極まって落涙したと告白している。第54回ヒホン国際映画祭監督賞受賞、本年度のアカデミー賞外国語映画賞フィリピン代表にも選出。世界から熱くし支持された『ローサは密告された』がまもなく日本に上陸する!

Story

マニラの無法地帯。腐敗した警察も、密売する女も、法の目をくぐりここで生きている。

ローサ・レイエス。サリサリストア「ROSA」を切り盛りし、夫ネストール、長男ジャクソン、次男カーウィン、長女ラケル、次女ジリアンとともにマニラのスラム街に暮らしている。人が密集しているこの街は貧しくても人と人のつながりは深い。

ある土曜日の夕方。スーパーマーケットに買い出しに来たローサとカーウィン。突然の雨の中、たくさんの買い物袋を持って家路へ急ぐ。タクシーが入ることを拒むその街は、貧しい人々が暮らすスラムだ。帰り着くと、ネストールは店番もせずに、こそこそクスリをやっている。

買い出してきた雑貨や菓子類を分けた後、仕入れた麻薬を砕き、手慣れた様子で小さなビニール袋に小分けにする。これが家族の生活を支えているのだ。

夕食を買いに出掛けるローサ。息子同然に面倒を見ているボンボンが「ローサ、“アイス”を売って」と近づいてきた。どうやら“アイス”とは、麻薬の隠語のようだ。

夕食を家族でとろうとしたその時、突然男たちがやってきた。

「警察だ!全員、動くな!ブツはどこだ?」
「ケガ人が出る前にブツを出せ!」
手錠をかけられ連行されるローサとネストール。

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警察署。
「禁止薬物の不法所持だ。言い逃れはできないぞ」
「刑務所に入るわけにはいきません。貧しいんです」
「20万で手を打ってやる」巡査がささやく。
「そんな大金……」ローサは口ごもる。
「協力しないならブタ箱行きだ。金がないなら売人を売れ」巡査はたたみ掛ける。
ローサは売人のジョマールを売った。

捕まったジョマールのバッグから大量の麻薬とカネが出てきた。巡査たちは、嬉々として、押収したカネを山分けしている。ひとりの巡査がカネをポケットに入れ、署長室に向かった。

巡査たちはジョマールにも金を要求した。
ジョマールは上級警部へ携帯メールで助けを求めるが、巡査たちにバレて、袋叩きにされる。
その様子を見ていたローサに巡査のひとりが拳銃を向けて言った。
「警察に連絡したら殺すぞ!区長に連絡しても同じだ」

ジョマールが持っていたカネ10万、ジョマールの妻・リンダが見逃し料として払う5万。
20万ほしい警察は残りの5万をローサたちに要求した。

「カネを払うまで、両親は帰せない」
警察署にやってきたローサの子供たちに3級巡査部長が告げる。
子供たちは両親のためにお金を集めることを決意するのだった。

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Director

ブリランテ・メンドーサ監督

Profile Profile

1960年7月30日、サン・フェルナンド生まれ。マニラの聖トマス大学で広告芸術を学び、映画、テレビ、舞台、CMのプロダクションデザイナーとしてキャリアをスタートさせる。その後、フィリピン国内で指折りのCMディレクターになる。2005年、インディペンデント映画製作会社センター・ステージ・プロダクション(CSP)を設立。45歳で初めて長編監督した「マニラ・デイドリーム」(05)がロカルノ国際映画祭のビデオ部門で金豹賞などを受賞。フィリピン、フランス共同出資作品「サービス」(08)が、フィリピン映画としては84年以来のカンヌ国際映画祭コンペ出品作となり、「キナタイ─マニラ・アンダーグラウンド─」(09)でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞する。同年、「グランドマザー/ばあさん」(09)をヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品、イザベル・ユペールを主演に迎えた『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(12)はベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界三大映画祭すべてのコンペティション部門出品を果たす。その後も、作品を発表するごとに世界の映画祭をにぎわす監督となった。

メンドーサ作品はフィリピン全土の様々な学校で上映されており、“Manoro(教師)”はフィリピンの教育省の教育単位の一部となっている。11年、フィリピンの映画批評家協会賞であるガワッド・ウリアン賞より00年から09年までの10年を称えて「10年の作品賞」が授与された。フランス芸術文化勲章のシュヴァリエ叙勲の名誉を受けた最初のフィリピン人である。

ほぼすべての作品の美術を手掛けており、その際は“ダンテ・メンドーサ”のクレジットを使用している。

Filmography (代表作品、 『 』は日本公開、「 」は映画祭上映orソフト化、“ ”は日本未公開) Filmography (代表作品、 『 』は日本公開、「 」は映画祭上映orソフト化、“ ”は日本未公開)

■2005
「マニラ・デイドリーム」 Masahista
第58回ロカルノ国際映画祭ビデオ部門金豹賞/第16回ブリスベン国際映画祭インターフェイス賞/第20回トリノ・ゲイ&レズビアン映画祭観客賞/第16回フィリピン若手批評家協会作品賞・俳優賞(ココ・マルティン)・脚本賞(ブーツ・アグバヤニ・パスター)・編集賞(ハーバート・ナバスカ、ノノイ・ダディバス)・撮影&ビジュアルデザイン賞(ティミー・ジメネス、モンチー・レドブル、ベンジャミン・パデロ)・
音響&音楽賞(ルディ・ゴンサレス、ノノイ・ダディバス、ジェロルド・タロッグ)
■2006
“Kaleldo”
第7回ダーバン国際映画祭主演女優賞(チェリー・パイ・ピカチェ)/第8回全州国際映画祭NETPAC賞
“Manoro”
第8回シネマニラ国際映画祭作品賞・監督賞(ブリランテ・メンドーサ)/第24回トリノ映画祭CinemAvvenire賞
■2007
“Pantasya”
「フォスター・チャイルド」 Foster Child
第18回ブリスベン国際映画祭NETPAC賞/第8回ダーバン国際映画祭作品賞・女優賞(チェリー・パイ・ピカチェ)/第31回ガワッド・ウリアン賞女優賞(チェリー・パイ・ピカチェ)/第56回FAMAS賞子役賞(キエル・セグンド)/第9回アジア・アラブ映画祭女優賞(チェリー・パイ・ピカチェ)/第56回フィリピン・アカデミー賞最優秀賞/第5回フィリピン・ゴールデン・スクリーン・アワード主演女優賞(チェリー・パイ・ピカチェ)/第9回ラ・パルマ映画祭SIGNIS賞/第18回フィリピン若手批評家協会作品賞・脚本賞(ラルストン・ジョエル・ジョバー)
「どん底」 Tirador
第58回ベルリン国際映画祭カリガリ賞/第7回マラケシュ国際映画祭審査員特別賞/第32回ガワッド・ウリアン賞作品賞・監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・撮影賞(ジェフリー・デラ・クルース、ブリランテ・メンドーサ、ゲイリー・トリア、フリアス・パロモ・ヴィジャヌエヴァ)・音響賞(ディトイ・アギラ、フネル・バレンシア)・助演女優賞(アンジェラ・ルイース)/第21回シンガポール国際映画祭アジア映画作品賞・アジア映画監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・NETPAC賞
■2008
「サービス」 Serbis
第61回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品/第3回アジア映画賞助演女優賞(ジナ・パレーニョ)/第6回バンコク国際映画祭東南アジア部門グランプリ/第33回ガワッド・ウリアン賞作品賞・監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・撮影賞(オディッシイ・フローレス)・美術賞(ベンジャミン・パデロ、カルロ・ダビッジュ)/第6回ウラジオストック国際映画祭監督賞・女優賞(ジナ・パレーニョ)
■2009
「キナタイ─マニラ・アンダーグラウンド─」 Kinatay
第62回カンヌ国際映画祭監督賞(ブリランテ・メンドーサ)/第35回ガワッド・ウリアン賞作品賞・監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・音響賞(アルバート・マイケル・イディオマ)/第8回フィリピン・ゴールデン・スクリーン・アワード作品賞・主演男優賞(ココ・マルティン)・助演女優賞(マリア・イサベル・ロペス)・監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・編集賞(カッツ・セオラン)・音響賞(アルバート・マイケル・イディオマ)/第42回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・最優秀オリジナル作曲賞(テリーザ・バロゾ)
「グランドマザー/ばあさん」 Lola
第66回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品/第6回ドバイ国際映画祭作品賞/第27回マイアミ国際映画祭審査員グランプリ/第29回ファジル国際映画祭作品賞・女優賞(アニタ・リンダ、ルスティカ・カルピオ)/第24回フリブール国際映画祭スペシャル・メンション・エキュメニカル審査員賞・ドン・キホーテ賞/第35回ガワッド・ウリアン賞脚本賞(リンダ・カシミロ)・女優賞(アニタ・リンダ、ルスティカ・カルピオ)・美術賞(ブリランテ・メンドーサ)/第8回フィリピン・ゴールデン・スクリーン・アワード撮影賞(オディッシイ・フローレス)/第11回ラ・パルマ映画祭作品賞・女優賞(アニタ・リンダ、ルスティカ・カルピオ)・撮影賞(オディッシイ・フローレス)/第22回フィリピン・スター・アワードデジタル部門撮影賞(オディッシイ・フローレス)・美術賞(ブリランテ・メンドーサ)
■2012
『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』 Captive
第62回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品
「汝が子宮」 Thy Womb
第69回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品インディペンデント批評家賞女優賞(ノラ・オーノール)・ナヴィセラ・ヴェネチア映画賞・ナザレノ・タデイ賞特別賞/第6回アジア太平洋映画賞監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・女優賞(ノラ・オーノール)/第7回アジア映画賞女優賞(ノラ・オーノール)/第36回ガワッド・ウリアン賞美術賞(ブリランテ・メンドーサ)・女優賞(ノラ・オーノール)/第7回グラナダ映画祭Cines del Sur審査員特別賞/第29回メトロ・マニラ映画祭監督賞(ブリランテ・メンドーサ)・女優賞(ノラ・オーノール・物語賞(ヘンリー・ブルゴス)・撮影賞(オディッシイ・フローレス)・美術賞(ブリランテ・メンドーサ)・ガットプーノ・アントニオJ.ビジェガス文化賞・ジェンダー配慮賞/第4回サハリン国際映画祭女優賞(ノラ・オーノール)/第22回フィリピン・スター・アワード独立映画撮影賞(オディッシイ・フローレス)・独立映画美術賞(ブリランテ・メンドーサ)/第23回フィリピン若手批評家協会俳優賞(ノラ・オーノール)
■2013
“Sapi”
■2015
「罠(わな)~被災地に生きる」 Taklub
第68回カンヌ国際映画祭エキュメニカル賞/第39回ガワッド・ウリアン賞 作品賞
■2016
「アジア三面鏡2016:リフレクションズ SHINIUMA Dead Horse」
『ローサは密告された』 Ma‘Rosa
第69回カンヌ国際映画祭主演女優賞(ジャクリン・ホセ)/第54回ヒホン国際映画祭監督賞(ブリランテ・メンドーサ)/第89回アカデミー賞外国語映画賞フィリピン代表
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映画の意図
この映画のアイディアは、四年前、似たような事件に、間接的にですが、私自身が巻き込まれた時に浮かびました。この事件を描こうと思ったのは、この事件が、ごく普通のフィリピンの一家の、独特で、厄介な性格を示しているからです。悪い事をしたせいで捕らえられた家族の一員を助けるためなら、何でもするのか。社会の基本的な価値観を犯してでも。強いものしか生き残れない、それがどうしようもない現実であるような社会の中で、家族は道徳を踏み外してしまう。問題の微妙さゆえに、『ローサは密告された』は私がこれまで撮った中で最も困難な映画になりました。一方でこの映画はフィリピンの警察にはびこる腐敗を描いています。この映画で描いたようなことは、フィリピンの都市のいたる所で行われているのです。
製作の過程
『ローサは密告された』は、フィリピンのとある一家に起こった出来事を描いていますが、マニラの人口密集地における生活の断面でもあります。強烈なリアリズムを持たせるため、ドキュメンタリーのように撮影しました。美術には、実際のロケーションやその場所にあった物を使用しました。生々しい感情を正確に捉えるため、俳優たちにはこれまで仕事で学んだ事をすべて忘れ、ただ素朴に、自然に演じてもらいました。素人の中にうまく溶け込まなくてはなりません。彼らにはシナリオを渡さず、私が撮影現場で与える指示のみで動いてもらいました。俳優の個人的な本能から生まれたセリフは非常に自然なものになりました。撮影は出来事の起こる順番どおりに進められ、俳優たちは、撮影が進むにつれ、自分の演じる人物の置かれた苦境を感じてゆくことになります。何が起こるか分からない不確かさが、スクリーンに定着されるのです。視点は主役であるローサに合わせ、彼女の眼から見た形で、その夜起こった出来事が語られるように編集しました。
マニラでの撮影
この映画を台風シーズン最中の8月に撮影したことで、環境そのものが、映画の性格を決定づけました。しかし、製作チームにとってそれはきつい挑戦でした。スラムで特殊な雨降らしを要するシーンでは、3台のカメラを同時に回しながら、ワンテイクで撮影しました。大掛かりな移動撮影をしながら、その周辺にいる野次馬にも対応しなくてはなりません。撮影中に洪水になったロケ地もありましたが、映画の雰囲気を伝えるためにその事態も利用しました。
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Cast

ジャクリン・ホセ

ジャクリン・ホセ ジャクリン・ホセ

Profile Profile

1964年3月16日、ルソン島のアンヘレス市生まれ。

「マニラ・光る爪」で知られるフィリピン映画界の巨匠・リノ・ブロッカ監督“White Slavery”(85)、「マッチョ・ダンサー」(88)といった映画に出演し頭角を現す。その後、活動の場をテレビにも広げ、「Mula Sa Puso」、「Maalaala Mo Kaya」といったゴールデンタイムに放送されたフィリピンの長寿テレビシリーズで人気女優の仲間入りを果たす。その後、40本を超える数々の人気テレビドラマやコメディ番組に出演し続けている。フィリピンで大ヒットした「A Secret Affair」(12)ではフィリピンのアカデミー賞と言えるFAMAS 賞で最優秀助演女優賞を獲得している。

ブリランテ・メンドーサ監督作品には監督デビュー作「マニラ・デイドリーム」(05)から参加、「どん底」(07)、アジアン・フィルムアワード助演女優賞にノミネートされた「サービス」(08)と立て続けに出演し、メンドーサ作品には欠かせない存在となっている。

夫はフィリピン人俳優のマーク・ギル。娘は本作でローサの娘ラケルを演じた女優でモデルのアンディ・アイゲンマンという芸能一家。ドナルド・サザーランド、キルステン・ダンスト、アルノー・デプレシャンらに高く評価されて獲得したカンヌ国際映画祭主演女優賞の授賞式では娘のアイゲンマンとともに涙を浮かべて表彰台に上がった。フィリピン人女優としてカンヌのみならず、大きな国際映画祭で初の主演女優賞受賞の快挙を成し遂げたこの感動的なスピーチに、会場にいたグザヴィエ・ドラン監督も涙ぐむ一幕もあった。

フリオ・ディアス

フリオ・ディアス フリオ・ディアス

Profile Profile

1958年11月18日、マニラ生まれ。メキシコ系フィリピン人というバックグラウンドを持つ。80年代から俳優としてのキャリアをスタート、これまで50本以上の映画に出演。テレビドラマにも多数出演している。フィリピン・インディペンデント映画界の雄、レイモンド・レッド監督「バヤニ」(92)、NHK教育でOAされた主演作「サカイ」(93)の演技で注目を集め数々の映画賞にノミネートされる。ASEAN25周年を記念して開催された『東南アジア祭92』のためにASEAN諸国と日本が初めて共同制作し、日本からは鴻上尚史が参加したオムニバス『サザンウィンド』の一篇「アリワン・パラダイス」(93/マイク・デ・レオン監督)に主演。数々の賞を受賞し、NHK衛星第二でOAされた「フロール事件」(95/ジョエル・ラスガン監督)に出演。

ブリランテ・メンドーサ監督作品には、ジャクリン・ホセと共演し、ガワッド・ウリアン賞最優秀助演男優賞にノミネートされた「サービス」(08)、「キナタイ─マニラ・アンダーグラウンド─」(09)など、リアリズムに徹した演技が高い評価を得た。2016年4月には脳梗塞で倒れ死の淵を彷徨う。その高額な手術費用を賄うためにフィリピンの多くの俳優や映画監督が援助した。奇跡的に生還し、その秋には仕事に復帰、「人生で二度目のチャンスに感謝している」とインタビューに答えている。

映画のリアリティをひもとけば、フィリピンの今が立体的に見える。

丸山ゴンザレス

本作には異様なリアリティがある。マニラのスラム街を舞台に撮影したそうだが、背景のひとつひとつに見覚えがあって、思わず「アレ知ってる!」と反応したくなってしまう。だが逆にあまりにリアル過ぎて、フィクションと思われかねないポイントがあった。ここで補足しておきたい。

まず、フィリピンの警察の雑さである。令状なしで犯人宅に押し入り、連行後は取り調べもそこそこに一気に見逃し料の話に入っている。流れるような展開で誇張しすぎと思われるかもしれないが、かなり現実に沿っているのだ。

フィリピンの警察は、市の予算で運営される。財政状況はいつもひっ迫していて、捜査にかける予算などはほとんどない。おそらく本作に登場する警察官の月収は2~3万円といったところだろう。そのため警察官は、幹部や署長への上納金を差っ引くといくら手元に残るのかを考えて見逃し料を計算しているのだ。

現場で見逃し料の請求が可能なのは、捜査のスタイルによるところが大きい。科学捜査が前提になって証拠集めをしている日本と違い、フィリピンでは監視カメラの動画と目撃証言や自供が重視される。そのため、まずは犯人を確保してしまって、“状況”に応じて目撃者を用意するかどうかを決めるのだ。つまり、目撃者が出てこない場合にはお蔵入り、迷宮入りにできてしまう。警察の胸先三寸であることをみんな知っているから、見逃し料の支払いにも応じるというわけなのだ。

ほかにも、本作が驚くほど狭い範囲で展開されていることもリアル過ぎる。同じ場所が何度も登場してくるのは、そのことを示しているのかとも思うが、実際のドラッグ売買も隣近所を対象にした小商いであることが多い。

日本に置き換えて考えれば、商店街のタバコ屋とか駅の売店で覚せい剤を扱っているような感じである。周囲の人が知らないはずはない。そうなると、本作の邦題にある「密告」の持つ意味合いがちょっと重くなる。取引関係にある人というだけではなく、隣人を売ることになるのだ。それで助かったとしても、コミュニティのなかではその後は周囲の顔色を伺いながら生きていかなければならない。

マニラのスラム街を取材した時、犯罪に関わっている人間を探したことがある。その際に「みんな知ってても言わないよ」とか、「警察の方が知ってるよ。必要なときに逮捕したり、たかったりしていく」とかなり衝撃的な証言をされた。

実際、昨年6月にドゥテルテ大統領が就任して麻薬撲滅戦争を開始して以来、自首したい犯人と自首されたら困る警察との殺し合いが繰り広げられている。

この映画のリアリティをひもとけば、雑さを演出したような部分にかなりの本物が含まれていることがわかる。こうしたマメ知識を踏まえていくと、映画だけでなく、フィリピンの今も繋がって立体的に見えることだろう。

まるやま・ごんざれす──1977年、宮城県生まれ。ジャーナリスト・編集者。國學院大學大学院修了。無職、日雇い労働などからの出版社勤務を経て独立。現在は国内外の裏社会や危険地帯の取材を続ける。近作に『フィリピン英語留学 潜入DVDブック』(ガイドワークス刊)がある。人気番組「クレイジージャーニー」(TBSテレビ系)に危険地帯ジャーナリストとして出演中。

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フィリピン共和国

東南アジアに位置する共和制国家。島国で海を挟んで日本、台湾、マレーシア、インドネシア、中国およびベトナムと対する。熱帯海洋性気候で、一年の大半は暑く湿度が高い。季節は3つあり、3~5月は暑い乾季、6~11月は雨季、12~2月は涼しく乾燥している。気温は21~32℃で、1月が最も低く、5月が最も高い。年間約20もの台風が通過する。
1ペソ=2.2795円 20万ペソ=455,900円 (2017.5.10.現在)

概要(出典:フィリピン統計機構)
  • 面積
    299,404?(日本の約8割)。7,109の島々がある。
  • 人口
    約1億98万人(2015年フィリピン国勢調査)
  • 首都
    マニラ(人口約1,288万人)(2015年フィリピン国勢調査)
  • 民族
    マレー系が主体。ほかに中国系、スペイン系など
  • 言語
    国語はフィリピノ語(タガログ語)、公用語はフィリピノ語及び英語。
    80前後の言語がある。
  • 宗教
    カトリック83%、その他キリスト教10%、イスラム教5%
    (ミンダナオではイスラム教徒が人口の2割以上)
  • 主要産業
    農林水産業―全就業人口の約27%
    コールセンター事業等のビジネス・プロセス・アウトソーシング
    (BPO)産業を含めたサービス業―全就業人口の約56%
略史(出典:外務省オフィシャルサイト)
  • 14~15世紀
    イスラム教が伝わり、フィリピンで初のイスラム王国であるスールー王国誕生
  • 1521年
    ポルトガル人のマゼランがフィリピン・セブ島に到着
  • 1571年
    スペイン統治開始
  • 1898年12月10日
    米西パリ講和条約調印。アメリカ統治開始
  • 1946年7月4日
    フィリピン共和国独立
  • 1986年
    2月革命によりコラソン・アキノ大統領就任、マルコス大統領亡命
  • 2016年
    ドゥテルテ大統領就任
フィリピン共和国 地図
貧困(出典:フィリピン統計機構)

フィリピンの貧困率は、2015年は21.6%で約2,200万人。この数年で貧困率は5%ほど下がり、GDPは上昇しているが、人口も増えているため、貧困人数は下がらず、富はひたすらに富裕層へ集中している。15年に食事を確保する上で最低限必要な「食糧費」は、月1,266ペソ(約2,820円)、5人家族で6,329ペソ(約14,430円)と言われている。貧困が深刻な「収入」が「食糧費」より下回る人は8.1%、820万人が最低限必要な食事すら口にできていない計算になる。

フィリピンの麻薬状況

なぜフィリピンで麻薬が大きな社会問題なのか? 歴史上、スペイン、アメリカの大国からの侵略・蹂躙に晒されてきたフィリピンは大きな産業が育ちづらく、比較的小さな工場で作りやすく単価も高い、覚醒剤の密造・銃器の密造が盛んになったと考えられる。特に多くの貧困地区では過酷な労働に耐えるため、薬物が蔓延している。薬物に汚染された国民と密売人は一説では30人に1人とも言われている。ただ、フィリピンの麻薬犯罪などの統計は、数字の幅が大きく正確な数は把握できない。

●ドゥテルテ大統領誕生の影響

2016年6月30日にロドリゴ・ドゥテルテ大統領が誕生した。
ドゥテルテ大統領は大統領選期間中から、一貫して麻薬、薬物犯罪への厳しい取り組みを宣言していた。ダバオ市長時代にも「ダバオ・デス・スクワッド ダバオ死の部隊」と呼ばれる自警団による麻薬、薬物犯罪者の暗殺を黙認してきたともされ、強硬な姿勢が国政レベルでも継続されるのかどうかが選挙戦の一つの焦点ともなっていた。
16年5月9日に実施されたフィリピン大統領選では、得票率39%の約1,552万票を獲得、次点候補に600万票以上の差をつけ当選したドゥテルテ大統領は、国民が麻薬、薬物犯罪撲滅への期待を自分に託していると判断、大統領就任直後から麻薬、薬物犯罪者の殺害を容認、報奨金などに言及して奨励している。ダバオ市長時代同様に警察のみならず、自警団による殺人も相次いでいるともいわれるが、全容は不明。現在、国際刑事裁判所から人権侵害があったとして警告が送られている。

●警察の汚職と麻薬政策

フィリピン国家警察には長きにわたる汚職の歴史があり、同国で人権侵害的な法執行機関の最たる例が警察だと米国務省は明言している。ドゥテルテ大統領は2017年1月29日の発言で、警察組織内の40%が「芯まで腐敗している」と述べた。これまでフィリピン政府は、「麻薬戦争」殺害を調査しようとする国連の働きかけを拒んで来た。だが麻薬撲滅作戦は国外では批判を浴びているものの、フィリピン国内では幅広い支持を獲得。ドゥテルテ大統領によれば、フィリピンは「麻薬の脅威」に対処しなければ崩壊の危機にひんしていたという。
大統領就任後、最初に行った7月25日の一般教書演説において、ドゥテルテ氏は、フィリピン国内には370万人の「麻薬中毒者」がいると断言した。フィリピン最大のメディア企業であるABS-CBNは、大統領選翌日の16年5月10日~17年5月9日までの1年間で3,407件の麻薬関連死が発見され、そのうち1,897件が警察による殺人と報じている。平均すると毎日9人の麻薬関連死者がいて、そのうち5人が警察により殺害されているという計算になる。

フィリピンの麻薬状況

●ロドリゴ・ドゥテルテ Rodrigo Roa Duterte

フィリピン共和国第16代大統領。1945年3月28日、南レイテ州のマアシンに、教師の母と公務員の父のもとに生まれる。ムスリムの多いミンダナオやマラナオ族、中華系などの血を引く。
49年、家族でダバオに移住。その後、父がダバオ州知事に選出される。72年、司法試験に合格する。特別弁護士を務めた後、ダバオ市検察庁の検察官となる。88年、ダバオ市長に就任、その後、再選などを経て16年まで6期にわたりダバオ市長を務めた。16年5月9日、フィリピンの大統領選に勝利し、同年6月30日に大統領就任。過激な発言の数々から「フィリピンのドナルド・トランプ」などの異名を持つ。

スラムとは

スラムとは

「人口が密集し、老朽化し、不衛生化し、設備不備のアメニティ(生活環境全般の快適さ)の問題などによって、居住者やコミュニティにとって健康や安全面、あるいは道徳的において問題があるとされる建物、建物郡、または地域」と国連では定義されている。

●フィリピンのスラム

第二次大戦後、特に工業化が進んだ1960年代以降、フィリピンのみならず東南アジア・南アジアの発展途上国で農村から都市への急激な人口移動が起こった。それに対して、都市部での産業化が進んでおらず、労働人口以上に都市人口が増大したため、「過剰都市化」となったことがスラム形成の背景にある。
フィリピンの総人口は第二次大戦後以来、急増を続けていて、48年に約1,925万人だった人口が80 年には約2.5倍の約4,809 万人に、95 年には約6,859万人に膨張した。マニラ首都圏では 60~95 年の35 年間で人口が最も急増し、人口約246万人から約945万人に増加した。人口増加率で見るとフィリピン全土では35年間で2.7%、マニラ首都圏では3.9 %である。人口増は特にマニラ首都圏に見られる。
68年におけるマニラ首都圏のスラム、及び不法占拠者居住地区は、推定で18万3,759世帯、人口 は同じく110 万 2,554人であり、当時のマニラ首都圏人口の27.8%を占めていた。その後、82年推計では、スラム及び、不法占拠者居住地区の人口は236 万 5,495 人となり、80 年のマニラ首都圏人口の39.9%を占めていた。

キーワード

●サリサリストア

お米・小麦、ジュースやビールなどの食品から、ティッシュ、洗剤、タバコなどの雑貨類を販売する簡易的なコンビニのような店。スーパーマーケットなどで仕入れ、ばら売りをすることで単価を上げる。貧しさゆえにまとまったものが買えない人たちが主な購買層。タバコ1本から買える。高くつくが、手元にお金がないのでやむを得ない。

●アイス

いくつかある覚せい剤の隠語のひとつ。粒の形状が粉よりも結晶に近いことや使用時に冷感を感じるなどの説がある。フィリピンでもっとも人気のある薬物メタンフェタミンは日本からやってきたSHABUの名前でも流通している。

フィリピンの屋台フード
●フィリピンの屋台フード

屋台で売られている「フィンガーフード」として人気があるのは、タラボール(魚のつみれ串)、クウェックウェッ(卵のフライ)、キキアム(魚のすり身を揚げたもの)、ベータマックス(鶏の血を固めたキューブの串焼き)、イサオ(鶏か豚の腸)。『ローサは密告された』でローサが買うのはベータマックスとイサオと魚のサバヒー。ちなみに「ベータマックス」とはSONY製のβテープに色が似ていることから。ラストシーンでローサが食べるのはキキアム。果物や酢を使ったソースにつけて食べる。

Review

  • 超一流の演技だ!――ドナルド・サザーランド
  • ラストシーンに感動して涙がこぼれた。――キルステン・ダンスト
  • 絶対的に美しい主演女優によるパフォーマンス!――マッツ・ミケルセン
  • 市民も警察もどちらも貧しく、モラルの線が見えない。そのジレンマがどう解決されるか最後まで目が離せなかった。タイムリーな題材でいて普遍的な「家族」がテーマのディープな映画。『ローサは密告された』を観るように友達に密告しました!――デーブ・スペクター(放送プロデューサー)
  • 社会の底辺の人は、時として罪を背負わなければ生きていけない。法がそれを罰するものであれば、芸術はそんな人間を愛しむものであるべきだ。本映画は、芸術の役割を残酷に、かつ見事なまでに果たしている名作だ。――石井光太(作家)
  • 信じられるのは家族だけ?降りしきる雨とともに画面を曇らせるのは、フィリピン現代社会の闇、生きようともがく家族の汗、そして彼らの奮闘(ストラグル)を見つめる私たちの吐息。――小野正嗣(作家)
  • 素晴らしかった。心を動かされた。――アルノー・デプレシャン
  • なんて大胆な映画なんだ!――クエンティン・タランティーノ
  • カンヌ受賞、おめでとう!――ロドリゴ・ドゥテルテ(フィリピン共和国大統領)
  • ドラッグの売人、ヤクザ、汚職警察官、買春するサラリーマン出てくるのはみんな「どうしようもない人」。でも、誰のことも憎めない。ドキュメンタリーではない部分を見抜いてやろうと思って見始めたが、途中からそんなことはどうでもよくなり、圧倒的なリアルの前に、ただ「スゲー」を連発するしかなかった。――土方宏史(映画「ヤクザと憲法」監督)
  • 麻薬、腐敗、暴力、極貧……這い上がることなど不可能な、天使が死んだ街。フィリピンの「ストレイト・アウタ・コンプトン」。タランティーノがぬるま湯に見える。――樋口毅宏(作家)
  • この映画を観ている最中に鳴っていた曲はレゲエの「ポリスとコソ泥」だ。ローサたちの汗と涙はことごとく紙幣に変わり、そのことに想いを馳せる者は誰もいない。――相澤虎之助(空族/『バンコクナイツ』『サウダーヂ』脚本)
  • 助け、助けられる。チクり、チクられる。蜘蛛の巣のように張り巡らされた濃密な人間関係のなかで国や行政のルールではなく、自らの信念と欲望に忠実に生きる善良で邪悪な人々。混沌を混沌のまま描いた傑作としか言いようがない。――石川直樹(写真家)
  • 貧困に、腐敗した権力に、嫌な気持ちになった。しかし、絶望の中にも光はある。家族の絆という、ほんの些細なものだけど。――室井佑月(作家)
  • 今や死語になってしまったが、日本映画界に、かつて「社会派」と呼ばれる作品群があった。この作品はまさしく「社会派」と呼ぶのが最もふさわしいと思った。
	そして無性に嬉しくなった。「社会派」映画を観て育った私は、懐かしさを覚えたからだ。「社会派」という言葉が死語になったのは、映画で描くべき日本の社会の何かが変わったからだ。あるいは失った、と言ってもいい。いや、日本人が自ら捨てたからだ、とさえ言ってもいい。何かとは?については、あえて、ここでは明言しない。が何か大切なものを失くしたのは確かだ。がフィリピンには、それは、紛れもなく、あるのだ。 フィリピン社会の持つ矛盾と腐敗、絶対的貧困。そして警察権力の賄賂の横行。そんな唾棄すべき世界の中で、そこでしか生きられない民衆に注ぐ映画人の優しい眼差し。この作品の最大の見所は、庶民を見つめる作り手の優しい眼差し、そのものである。――原一男(映画監督)今や死語になってしまったが、日本映画界に、かつて「社会派」と呼ばれる作品群があった。この作品はまさしく「社会派」と呼ぶのが最もふさわしいと思った。
	そして無性に嬉しくなった。「社会派」映画を観て育った私は、懐かしさを覚えたからだ。「社会派」という言葉が死語になったのは、映画で描くべき日本の社会の何かが変わったからだ。あるいは失った、と言ってもいい。いや、日本人が自ら捨てたからだ、とさえ言ってもいい。何かとは?については、あえて、ここでは明言しない。が何か大切なものを失くしたのは確かだ。がフィリピンには、それは、紛れもなく、あるのだ。 フィリピン社会の持つ矛盾と腐敗、絶対的貧困。そして警察権力の賄賂の横行。そんな唾棄すべき世界の中で、そこでしか生きられない民衆に注ぐ映画人の優しい眼差し。この作品の最大の見所は、庶民を見つめる作り手の優しい眼差し、そのものである。――原一男(映画監督)
  • 町中に、夜に、スピードの中に見出すテーマ。走り、吠え、軋み、泣く。感動的な力技だ。物語やその展開以上に絶え間なくかき立てられる混沌とした素材の質感が重要だ。それこそが差し迫った印象、真実味を生み出す。──ヌーヴェル・オプセルバトゥール
  • 非情で、見た後に重苦しい気持ちにさせる。しかし、脈打つ共感を無視できない。──プレイリスト
  • 不正とノイズに私たちは打ちのめされ、疲れ果てる。しかし世界に開かれた窓として、この映画の存在に安堵もする。──ウェスト・フランス
  • 『ローサは密告された』は立ち向かうべき映画だ。観客の事なかれ主義の安楽は捨て去られねばならない。
  • 生々しく、汚らしく、誠実で、骨身に染みる。ありがちな映画をはるかにしのぐ強烈な印象を残す。──アップカミング
  • 貧しさとは何かを、冷静に、そして厳しく見つめる、獰猛にしてペシミスティックな風刺。──ガーディアン
  • 人間の命など何の価値もないような、無慈悲で過酷な世界。極度に暗い世界に、笑いやヒューマニズムが光のように差し込む。見る人を満足させる、力強い映画。──レザンロキュプティブル
  • フレームが絶えず揺れ動くシークエンス・ショットの長廻し、きめの粗い映像が生み出す、人の心をつかんで離さない現実感。──テレラマ
  • メンドーサ監督はまたしても撮影地をひとりのキャラクターに変えた。その手腕は見事だ。──ハリウッド・リポーター
  • 夜の市場に降る熱帯のスコールや、街の雑踏の混沌、与え、奪い、また奪われる人々の汗だくの顔の厳粛な美しさが際立っている。──ロジャー・エヴァート・ドット・コム
  • ブリランテ・メンドーサ監督は、労働者階級の家族関係を飾らない温かさで描く。単純でいて筋の通った物語が、手持ちカメラのリアリズムで撮られる。控えめながら自信に満ち、観るものを決して失望させない。──ヴァラエティ
  • 祖国の腐敗を告発するメンドーサ監督の戦い。女優ジャクリン・ホセの演技がその戦いを、これまでにないほどに力強く支えている。恐ろしいまでに感動的。──バンド・アパール
  • 内奥に力強さと激しさを湛えた映画。もはや美学に煩わされず、それ自体が一つの美学に至っている。──カルチャー・ボックス
  • ブリランテ・メンドーサ監督は悲惨と腐敗を繰り返し捉え続ける。ヒロインの冷静さが際立っている。──ドーフィネ・リウベレ
  • 人間味あふれるジャクリン・ホセの演技は、汚辱の中を這い回ることを強いられるローサに温かさを与えてくれる。──20ミニッツ
  • ブリランテ・メンドーサ監督はネオ・リアリズムの手法を用いて、マニラの最下層地区の腐敗を暴き出し、怒りを掻き立てる。その試みは見事に成功している。描かれたものは醜い。しかしそれこそがこの映画のポイントなのだ。──ザ・ラップ
  • これまでに語られることのなかった人生の暗い片隅に光を当て続ける映画作家、それがメンドーサ監督だ。──スクリーン・デイリー
  • マニラの貧民街の湿気、汚さすら遠慮なく映し出す。メンドーサ監督は家族の価値を褒めたたえ、試練に負けず頭を昂然と上げて歩き続けるひとりの女性の感動的な肖像を描き出す。──ガラ
  • メンドーサ監督は、犯罪に巻き込まれた社会のはぐれ者を描くことで、生き延びるために日々戦わざるを得ない状況にある個人の状況を暴き出す。──ジュルナル・デュ・ディマンシュ

Theater

上映は終了いたしました。

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