いつか来るその時まで、ちゃんと日々を生きること。
決して終わりではない、"さようなら"についての物語。
家族や友人という身近な人、そして自分もいつかは迎える"死"という別れ。突然であっても、あらかじめ知らされていたとしても、それは悲しい出来事。もし自分の命の終わりが見えたとき、人は何をするだろう? 何かを残す?別れの言葉?大切にしていた物?もし自分に子どもがいたら、何を伝えるだろう?それとも何も残さない?そして、"その時"をどうやって迎えるだろう?しかし、悲しみや絶望の一方で"その日"までの日々には、きっと笑顔も喜びもあるはず。
『マルタのことづけ』は、太陽の国メキシコを舞台に、ある女性の人生を変えた偶然の出会いと、永遠の別れまでを描く珠玉の作品だ。不治の病にかかり、消えゆく自らの命に反して、日々を生きることに前向きなシングルマザーのマルタ。その姿が、マルタと偶然に出会い、ひょんなことから家族の一員に加わることになる天涯孤独のクラウディアを変えていく。そしてクラウディアは"母の死"という大きな悲しみに直面している彼女の子どもたちに寄り添い元気づけていく。そう、本作は「生きること」についての物語でもあるのだ。
監督自身が体験した、決して忘れられない出会いと別れの実話に基づく作品
本作で強烈なデビューを果たしたのは、クラウディア・サント=リュス。作品のもとになったのは、監督自身に訪れた思いがけない出会い。両親の離婚後、母親との生活に息苦しさを感じて17歳で家を離れた監督は、そのころの自分について「世界について興味を持てなかった」という。そして大学卒業後の2005年、作品のモデルとなったマルタと彼女の家族に出会う。当時、マルタはすでに闘病生活に入っており、彼女とその家族と過ごした約2年間の出来事が、自分を取り巻く世界との接点を見失っていた監督を変えたという。そして数年を経て、自らに訪れた奇跡のような出会いと別れをもとに、尽きようとする命と、それを見守る家族、そしてそこに関わることで生きる希望を見出す女性の物語として本作を生み出した。
名匠パトリス・ルコントが認めた、メキシコの新星女性監督の鮮烈デビュー作
"母親の死"という重くなりがちなテーマにユーモアを交え、軽やかに描いていく『マルタのことづけ』は、脚本の段階でメキシコ映画協会のコンペティションを勝ち取るなど、注目を浴びていた。完成後は、トロント国際映画祭国際批評家連盟賞、ロカルノ国際映画祭YOUTH JURY賞グランプリを受賞したほか、メキシコ・アカデミー賞(アリエル賞)では、作品賞と監督賞をはじめ7部門にノミネートし、マルタ役のリサ・オーウェンが助演女優賞を受賞した。さらに名匠パトリス・ルコントが審査員長をつとめたヒホン国際映画祭では審査員特別賞を受賞した。撮影は、アニエス・ヴァルダ、アンドレ・テシネ、クレール・ドニといった名匠の作品に携わってきたアニエス・ゴダール。南米の強い光と、母の死を前に張りつめた家族の時間を繊細なタッチでとらえる。監督自身が投影された主役のクラウディアを演じるのは、ヒメナ・アヤラ。マルタを演じるのはメキシコの人気女優のひとり、リサ・オーウェン。また、マルタのモデルとなった女性の二女、ウェンディ・ギジェンが自らの役を演じているのも見どころ。
「1人なの?ご家族は?」
「体に障るわ 送るから乗りなさい」
メキシコ第2の都市・グアダラハラ。4人の子どもを持つシングルマザーのマルタと、友人も恋人もいないクラウディアは、偶然病院で出会った。虫垂炎を治療し短い入院を終えたクラウディアを、マルタは自宅での食事に招く。クラウディアは戸惑いながらも、マルタの愛車に乗り込み彼女の自宅へと向かう。
クラウディアは強烈な4人の子どもたちと、自分を娘のように扱うマルタに戸惑いながらも、自分を必要としてくれる彼らの中で居心地の良さを感じ、家族の一員のように時間を過ごしていく。そんなクラウディアに、三女のマリアナが誰にも言えなかった胸の内を話し始める。
「ママが死ぬのをみたくない―」
4人の子どもの母・マルタは、不治の病を患っていた。そして、遺していくことになる子どもたちの面倒をみることと、残された日々を生きることに全力を注いでいた。自らの人生を愛し、4人の子どもたちとクラウディアを慈しむマルタは、両親を失い、愛を知らぬまま独りで生きてきたクラウディアに愛の意味を教え、生きることへのエネルギーを授けていく。一方、お互いに素直になれなかったり、彼氏とうまくいかなかったり、学校でいじめを受けていたり、入退院を繰り返すマルタに時折冷たくしてしまったりと、"母親の死"という人生における大きな喪失に立ち向かいながらも、若者としての日常も過ごしていくマルタの子どもたち。彼らそれぞれにとって、マルタが連れてきたクラウディアが潤滑油のような存在となっていく。
マルタとクラウディアの偶然の出会いが、彼らの生活に新たな風をもたらした日々。マルタが遺した"ことづけ"とは―。
1980年12月29日メキシコシティ生まれ。2001年「Nadie te oye: Perfume de violetas(英題:Violet Perfume: Nobody Hears You)」(監督:マリサ・シスタシュ)で映画デビュー。同作でメキシコ・アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめとして、海外でも高く評価される。パリの ・ルコック国際演劇学校で3年間演技と舞台美術を学ぶ。メキシコに帰国後、モントリオール国際映画祭で銀賞を受賞した「Malos habitos」('07/監督:シモン・ブロス)に出演。HBOの人気ドラマ「Capadocia」の第2シーズン('10~)および第3シーズン('12~)に出演。2012年にはカルロス・ソリン監督(『エバースマイル、ニュージャージー』('90))による「Dias de pesca en Patagonia」に出演。また、カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞したエリサ・ミラー監督の短編作品「Ver Llover」('07)に関わるなど、製作側としても活動をしている。
1966年メキシコシティ生まれ、ハラパ育ち。メキシコ国立自治大学の大学演劇センターで演技を学ぶ。国内の様々な作品に出演するほか、『ポワゾン』('01/監督:マイケル・クリストファー)、『ナチョ・リブレ 覆面の神様』('06/監督:ジャレッド・ヘス)「狼たちの報酬」('07未・DVD発売/監督ジエホ・リー)、『バンテージポイント』('08/監督:ピート・トラヴィス)などの作品にも出演している。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』('04)では、エマ・トンプソンによるシビル・トレローニー役のスペイン語版の吹き替えを担当している。また、HBOのドラマ「Capadocia」の第2シーズン('10~)にも出演するなど、映画だけでなく、TVドラマや舞台でも活躍している。本作品でメキシコ・アカデミー賞最優秀主演女優賞、クエンカ映画祭最優秀賞などを受賞。最新作は、奇才ピーター・グリーナウェイ監督の新作「Eisenstein in Guanajuato」('14公開予定)。
1982年12月28日メキシコ・ベラクルス生まれ。2004年にグアダラハラ大学視覚芸術科卒業。その後、女優兼助監督として活動を始める。2005年グアナフアト国際映画祭にて、24時間でショートフィルムを制作するという課題に取り組み、「Muerto Anunciada(予告された殺人)」で最優秀主演俳優賞および特別賞と観客賞を受賞。2007年以降、メキシコ国内にて長編作品の助監督として活動しつつ短編作品を制作し、2010年、メキシコ映画協会主催のコンペティションを本作品の企画で勝ち取る。2011年3月、サンダンス・インスティチュートのシナリオ・ライター・ラボラトリーとトスカーノ基金の後援によって『パンズ・ラビリンス』(07)などの製作に携わったベルサ・ナヴァロが主宰するシナリオ・ライティング・ラボラトリーの17期に本作の脚本を持って参加。また、ベンタナ・スール映画祭では将来性のある才能を見出すことを目的に行われているポストプロダクション作品部門を本作で受賞。
※サンダンス・インスティチュート=ロバート・レッドフォード氏が主宰する非営利団体
※トスカーノ基金=メキシコ映画のパイオニア的存在のサルバドール・トスカーノの娘であり、メキシコ映画の発展に献身したカルメン・トスカーノの活動を受け継ぎ、メキシコ映画の発展を目的として設立された基金。
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